この時期の報道に特徴的だったのが、週刊誌やネットメディアからの発信である。第1の山が新聞を中心とした報道であったのとは対照的である。(堀江孝司「新聞報道に見る生活保護への関心――財政問題化と政治問題化」p.49)。テレビも、第1の山がドキュメンタリー番組としての報道が多かったのに対し、第2の山ではワイドショーが積極的に報じた。
この動きは国会にも波及する。12年3月の世耕弘重参議院議員を座長に生活保護に関するプロジェクトチームが発足し、同年9月に行われた自民党の総裁選では複数の候補者が、生活保護の見直しを公約した。安倍晋三元首相もその一人である。
その後の総選挙で自由民主党が民主党を破り、政権に返り咲いたことは周知のとおりである。生活保護の見直しはただちに実施され、生活保護費の引き下げや生活保護法の改正などの対応が行われた(一連の経緯は、拙著『生活保護vs子どもの貧困』に詳しい)。
生活保護の給付削減や受給要件の厳格化は人気政策
生活保護の新聞報道を分析した東京都立大学の堀江教授は、「生活保護の給付削減や受給要件の厳格化は、政治家がアピールできる人気政策にもなりうる」と指摘する。
国や自治体からすれば、生活保護利用者が減れば財政負担の軽減にもつながる。
「生活保護バッシング」は、不満を抱える国民感情に安心して攻撃できる対象を示し、報道機関も悪を見つけて叩く“正義”に酔いしれた。
喧噪の後、14年をピークとして生活保護の利用者数は減少に転じ、現在までほぼ一貫して減少傾向にある。コロナ禍において増加が予想されたが、特例貸付などの緊急対策もあり、微増にとどまった(一連の経緯は、筆者記事「生活保護費に迫る コロナ禍「特例貸付」1.2兆円の衝撃 貸付総額はリーマン・ショック時の50倍以上」に詳しい)。
これが、「好景気により失業者が減ったことや、有効な対策が打たれたことで生活保護を利用しなくてもよい人が増えた」のか、「生活保護バッシングによって『生活保護だけは受けたくない』と考える人が増えた」のかは、筆者が知るかぎり研究報告がない。だから、「わからない」としか言えない。
筆者に言えるのは、「メディアが生活保護をどう報じるのか」は生活保護の運用に大きな影響力をもっているということである。利用者を守れという声が高まれば生活保護は柔軟に運用されるようになるし、不正・不適正な受給を問題視する報道が多くなれば給付削減や厳格化の対応がなされる。
最後の”セーフティーネット“といわれる生活保護が、その時々の時代の空気で変化をする。一見すると岩盤のように硬い制度が、実際にはどの制度よりも柔軟性に富んでいるというのは皮肉な話である。