政府系住宅金融公社のファニーメイとフレディマックが経営危機に陥ると共に、最大規模の投資銀行の一つリーマンブラザーズも破綻し、信用不安が広がり他の多くの金融機関も危機に陥った。米国全体が不安に包まれたのである。
そのような中、鳩山氏の論考は続けて、「今回のアメリカの金融危機は、多くの人に、アメリカ一極時代を予感させ、またドル基軸通貨体制の永続性への懸念を抱かせずにはおかなかった」とし、「私も、イラク戦争の失敗と金融危機によってアメリカ主導のグローバリズムの時代は終焉し、世界はアメリカ一極支配の時代から多極化の時代に向かうだろうと感じている」とまで書いていた。
米国を刺激し続けた民主党政権
歴史的に東アジアがまとまることを嫌ってきた米国政府関係者の中は、ついに来るものが来たと感じた者もいた。リーマンショックで米国が弱っている隙をついて、日本の新政権は、日中を中心とする反米的な東アジア共同体を作ろうとしているとみなしたのである。
しかし、この鳩山氏の論を、よく読んでみると、「[米国]は今後も日本外交の基軸でありつづけるし、それは紛れもなく重要な日本外交の柱である」とはっきり書かれているし、「いまのところアメリカに代わる覇権国家は見当たらないし、ドルに代わる基軸通貨も見当たらない」としている。そして「今後2、30年は、その軍事的経済的な実力は世界の第一人者のままだろう」と結論付けているのである。しかし、この部分は重要視されなかった。
米側の反応は日本政府にとっては予想外に大きなものであった。米財団の関係者が、鳩山の東アジア共同体という考えが米国の利益と相いれないと示唆したものの、岡田克也外相は、東アジア共同体構想に触れて、そこには米国は含まれないと米側を更に刺激した。
鳩山首相もよりによって北京での日中韓首脳会談において、これまでの日本は米国に依存しすぎていたと述べ、「新しい日本は東アジア共同体を構想していきたい」と繰り返した。先の論考は、野党時代のもので、一端首相になれば、自重するだろうと考えた米側の期待は裏切られたのである。
早速米側は、駐日米国大使が不快感を表明するだけではなく、キャンベル国務次官補が来日して警告した。日本政府は、予想を超えた米側の反応の大きさに外務省を中心として釈明に追われた。
米国が日本に持つ“不安”
ただ、日本人にとってこれらの鳩山由紀夫氏の東アジア共同体論は、深く練られていない鳩山個人の発想によるものであり、親米路線を変えるといった深い意味はないことは明らかに思えた。また、歴史問題を抱える東アジア諸国が容易に連携するというのはありえないという現状もあった。バブル崩壊後の国力低下で自信を失った日本国民にとって、鳩山氏の論に米国がなぜそれほど大きく反応したかについては理解に苦しむところであった。
ではなぜそのような大きな反応を引き起こしたのであろうか。今回の衆議院議員選挙の結果について米メディアをして、「日本は不確実性に突入した」とまで言わしめるものとの共通点を感じる。