2024年11月21日(木)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年11月5日

 これを指摘するのは、かつては反政府右派だったが、中道派の政治家たちも、有権者が移民問題に真剣になっていることに気付いた。ベルリンは先月、「非正規移民を制限する」ため、ドイツと他のEU諸国との国境で検問を再開した。フランス、オーストリア、イタリア、スウェーデン等も同様の措置をとっている。特に問題になっているのは、移民が亡命申請を有利なEU諸国内で行おうと申請先を選ぼうとすることだ。

 トゥスク氏は昨年の選挙で右派政党「法と正義党」を退け、EUの喝采を浴びた中道派の政治家だ。欧州委員会は「国際的義務とEUの義務」を引用しつつ、彼の発表を批判したが、トゥスク氏はポーランドの有権者に応えているのだ。

 ポーランドの有権者、そして近隣諸国の人々は我慢の限界に達している。トゥスク氏のようなEUのエリート政治クラブのメンバーでさえ、このことを理解し始めている。

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欧州が持つ移民への2つの懸念

 欧州における移民・難民問題は、二つの理由から多くの国において深刻な政治課題となっている。第一の理由は、ロシアやベラルーシが、EUの人道主義を逆手にとって、不法移民を使って「ハイブリッド戦争」を仕掛けていることである。

 例えば、ベラルーシは2021年以降、中東やアフリカ、アフガニスタンからの難民を数万人集めて、隣国ポーランドに送りこもうとし、ポーランドは国境沿いに壁を作って対抗してきた。今回の庇護申請権の停止に関して、欧州委員会や人権団体からの批判はあるも、ポーランド政府は、「国の安全を守る必要がある」と正当化している。

 今年の夏には、フィンランドもロシアからの移民に対し、庇護申請の停止措置を講じている。ロシアは否定するが、移民たちの出身国(中東や南アジア)からロシアまたはベラルーシを経由してフィンランド国境までの交通手段を何者かが斡旋していた由である。ロシアおよびベラルーシと「陸の国境」を接しているEU加盟国(ポーランド、バルト3国、フィンランド)の警戒感は非常に強い。


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