道具は、下刈時よりも太くなった広葉樹が対象なので、造林鎌より肉厚で丈夫な除伐鎌、柄鎌(えがま)、手鋸(てのこ)を使用する。鎌の刃を幹に対して斜めに入れると、伐りやすい。勢い余って足を切る恐れがあるので要注意だ。
真横に振ると力がいる。さらに太いものは手鋸を使う。広葉樹は、切り口から萌芽が再生するが、手鋸で伐った方が再生力は落ちる。切れない刃物で切った傷が治りにくいのと似ている。
除伐は、15年生ぐらいで2回目を実施する。そうするうちに造林木の林冠(森林の上部の樹木の枝葉同士が集まった部分)が鬱閉(うっぺい)して林内は暗くなる。林床(森林の地表面)に光が届かなくなると雑木が育たなくなり、保育作業は卒業となる。
脱除伐への挑戦
除伐作業を省略するとどうなるかという現場ベースの研究も行われた。かつての独立採算制下での国有林では、造林作業における省力化は重要課題であった。
最近のように補助金をもらうための作業になると出来形が仕様書どおりでなければならず画一的になってしまう。補助金のために造林作業本来の自由度の高い精神が失われてしまうのが嘆かわしい。
除伐を省略すると、副次的にいいことがあった。雑木に邪魔されて、造林木の根元に近い方の枝を伸ばすことができず、枯れ上がるのだ。枝打ち作業と同じ効果が得られるのである。
ちなみに植物学者の牧野富太郎の有名な言葉に、世の中に雑草という植物はない、というのがある。至言である。
筆者もここでは雑草木などと造林木の立場から見た表現を使っているが、本当は心苦しい。自給自足に近い山村生活では、あらゆる草本、木本には有効な使い途があって、すべて無駄にすることはなかったのである。そのことを心にとめて作業すると、さらに造林作業に楽しみが増えるだろう。
こうして見ると、下刈・除伐に限らず造林作業の要諦は、いかに手抜きをするかにあるのだ。目の前にぶら下がった補助金ばかり追い求めていると、技術の発展や自然界に働きかける創造性を見失ってしまう。
つる切
造林でもう一つ重要な作業となっているのがつる切である。つる類は、造林木の大敵である。つるが樹木の先である梢に達すると、まっすぐ伸びようとする梢を変形させ、曲がりや二股など樹幹の変形を引き起こす。樹幹に絡みつくと締めつけられて、樹幹がねじのようにへこむ。
さらに樹冠部(樹木の枝葉が集まった部分)で複数の樹木に絡みついたつるは、風害や雪害の発生時にそれらの木々をいっしょに引っ張って倒してしまう。後で述べるが、労働災害の原因にもなる。
そこでつる切という一見地味な作業が不可欠となる。つるは局所的に点々と発生することが多いので、遠方から造林地を見て、造林木に絡みついたつるを見つけて、林内をはい回ってその個所を探す。これはなかなか大変な作業である。だいたいつる切は、下刈と除伐の間の期間に行うことが多いが、見逃しも多いので、随時行うことになる。