フジは、初夏に薄紫の花を咲かせ、モノトーンの人工林でよいアクセントとなって美しい。ところが林業にとってはこれも大敵である。
つる切を怠った手入れ不足の証拠みたいなものだったが、森林所有者の関心が山から離れると、伸び放題で太くなり、造林木を巻き殺したり、絡みつかれた複数の木が強風でまとめて倒されたりする。
風害の場合は、林地から根こそぎ引き抜かれた状態になるので、土砂流出への懸念が強まる。美しい藤の花は、実は林業衰退への警鐘なのである。
ツルアジサイもよく見かける。初夏にガクアジサイに似た白い花を咲かせ、樹木の幹が夏の装いとなる。
写真はないがツヅラフジというのもある。毎年国有林から有料で採取しているおばさんがいた。かつては葛籠(つづら)の材料となったようであるが、今では竹でつくるそうだ。
そのおばさんは、土瓶のつるに加工するのだという。思えば国有林は不思議なものも売っていた。量の把握と値段の算定はどうしたのか、まったく忘れてしまった。
つる切りを忘れた壮齢人工林に小学生を野外授業で連れて行った。太くなったつるの根元を切って、つるブランコを作ると、子どもたちはつるにぶら下がって、ターザンになった。手入れの遅れも、またよきかな。自然の営みは創造力を養う。
つるによる労働災害
つるは、「つるがらみ」という労働災害の原因になる。樹木の上部につるが巻き付いているのを知らないで伐倒すると、つるに引っ張られて伐倒する方向が狂ったり、梢が折れて落下したりして作業者に当たる。まず重傷以上の重大災害につながることは間違いない。
伐倒作業に入る前に、樹冠を見上げて、指差し呼称で「上方よし、つるがらみなし」と大きな声を出して、確認する必要がある。つるがあればもちろん切断する。
本当は、伐採する前に森林全体を見回って、つるがあれば切断しておかなければいけない。そうすれば伐倒が入るまでに、切断したつるは枯れて張力を失うので、伐倒方向を狂わせる恐れは少なくなる。自然の中で安全に作業するには、周到な準備が必要なのである。
ツタウルシは、秋にはきれいに紅葉、黄葉して麗しい。それをウルシの名前の由来とする説があるが疑わしいものだ。ウルシ同様かぶれに要注意で、その下を通っただけでもかぶれる人がいる。特に樹液が活発に流動する春から夏が危ないようだ。
森の中には様々な危うさが潜んでいる。それらに打ち勝たないと、林内での快適な作業はむずかしい。役立つことも支障をきたすこともあるのが自然である。それをどう生かすのか、林業に携わる人たちの腕の見せ所となる。