そのため森林官は、ふだんから巡視の際には必ず腰鉈(こしなた)を携行する。そして造林木に絡みついたつるを見つけたら、すぐに切断してやる。こうしていると造林地に愛情が湧いてきて、造林木を我が子のように慈しむ。これが山づくりの要諦というものだ。
数あるつるの中でもクズは、もっともたちが悪い。埋土種子といって土の中に埋もれて何十年も生きている。
森林が皆伐され、日光が地表に届くと、一斉に発芽して地表を覆う。よく鉄道の線路際などで見かける光景である。
秋の七草に数えられる植物であるが、林業人に言わせれば、そんな奥ゆかしさはない。米国にも渡来して蔓延し、九州ほどの面積に広がっているという。侵略的外来種になっているのだ。
クズに覆われると、造林木は被圧されてしまうか、梢端部を折られたり、幹を曲げられたりして変形し、木材としての商品価値を失ってしまう。下刈の繰り返しで消えることもあるが、一面に発芽した小クズはたちが悪い。クズノックという粉剤を葉面散布するのが一番効果的だが、沢の近くに多いクズには使用したくない。
葛粉が採れるぐらい太くなった根には「ケイピン」を刺す。ケイピンとは、図のようなマッチ状のもので軸に薬剤をしみ込ませており、この部分をクズに差すと薬剤がしみだして、クズが枯れる。
国有林では薬剤使用について労働組合が原則反対していた。しかし、クズの蔓延がひどいので、九州ではケイピンに限っては、営林局(現・森林管理局)の担当が業務命令(業務遂行を目的に、使用者が労働者に対して発する命令)をかければ仕方なく作業員が使用するといういわば出来レースをやっていた。ところがあるときいつまでも出来レースでは、対外的に聞こえが悪いと営林局と労組の地方本部で「業務命令を出さない」ことで合意した。
ところが筆者のいた営林署の労組の分会では頑なにケイピンの仕様を拒否する。合意と違うじゃないかと局に問い合わせたら、どうも分会では「業務命令を出させない」ようにするのだと勘違いしていたのだ。
このような労使関係では、仕事は先に進まない。幸いその誤解は解消されて、無事にケイピンを打つことができた。
害だけではないつるの二面性
ところで、造林サイドから見るとつる類は敵なのだが、つるには山村の生活に役立つものが多い。
ヤマブドウの実は酸味が強いが、クマやシカなどの野生動物の大好物である。最近ではジュースやジャム、ワインにも加工される。また、樹皮は手編みの籠などの材料として最高で、数十万円もする高級品がデパートでふつうに売られている。
日当たりのよい若齢造林地によく発生するが、近年は造林面積が少ないことから、入手しにくくなっている。ヤマブドウを採取するために造林木を伐り倒す悪質な人もいるから、世も末だ。
マタタビは、林道を走っているとよく見かける葉裏の白いつるである。果実を焼酎に漬ければ薬用酒になる。これを飲むと「また旅にでる」ぐらい元気になるとか。特に虫こぶで変形したものが珍重される。また、「ネコにマタタビ」と言われるぐらい、このつるのすべての部分がネコを陶酔させる。