ジャウラニは政権陥落後、ダマスカス中心部で演説し「新たな歴史をつくった」と勝利宣言した。40を超える武装組織を統合した「シリア国民軍」(SNA)も反体制派の一翼だ。トルコから強力な支援を受ける組織で、トルコ軍の命令を受け、リビアやアゼルバイジャンなどの海外の戦闘にも派遣されたと報じられている。
シリアにはこの他、北東部を拠点とするクルド人勢力「シリア民主軍」という強力な組織がある。米軍の先兵として過激派イスラム国(IS)を掃討した。そのISも依然、千人規模の勢力が活動し、米駐留部隊が監視している。
今後のシリアがジャウラニ体制で固まるのかなど統治形態は不透明。HTSとSNAが統治をめぐって主導権を争い、内戦状態が再燃する恐れもある。懸念されるのは西部に地盤を持ち、アサド一族を支えてきたアラウイ派の動向だ。スンニ派の反体制勢力と宗教的に対立し、衝突しかねない。
最大の勝者はエルドアン
今回の政変劇ではっきりしているのはトルコのエルドアン大統領が最大の勝者ということだ。内戦は20年、トルコとロシアが停戦で合意し、膠着状態となってきたが、ロシアがウクライナ戦争で、イランがガザ・レバノン戦争で身動きが取れないスキに「反体制派に進撃の青信号を出した」(ベイルート筋)。
エルドアン氏のアサド政権打倒の狙いは短期的には敵視するクルド人の自治区の増大阻止やシリア難民の300万人の帰還促進だ。だが、長期的には中東における覇権やシリアの将来に対する発言権を拡大することだろう。対照的にイランはシリアを失い、レバノンのヒズボラへの武器輸送ルートを断たれ、敗者となった。
もう一人高笑いしているのがイスラエルのネタニヤフ首相だ。アサド政権の崩壊は「イランとヒズボラにイスラエルが打撃を与えた結果だ」と軍事作戦の成果を誇示した。だが、砂漠の風紋のように情勢が転変する中東でいつまで笑うことができるのか。米露も含めさまざまな思惑が交錯する中、シリアをめぐるグレートゲームの幕が上がろうとしている。