2025年1月16日(木)

日本人なら知っておきたい近現代史の焦点

2024年12月11日

 バイデン批判は民主共和両党から巻き起こっている。ケンタッキー州選出のジェームズ・コーマー下院議員(共和党)は、「バイデン大統領とその家族は、説明責任を回避するためにあらゆることを続けている」と述べた。

 バイデンの恩赦に対する批判は共和党からばかりではない。コロラド州のジャレッド・ポリス知事は民主党員であるが、バイデンは国家よりも家族を優先したと失望を表明し、悪しき先例として将来の大統領に濫用されてバイデン氏の評判に傷がつくだろうとした。

「家族だから」だけではないバイデン恩赦の問題点

 今回のバイデンの恩赦は、多くの点で批判されるべきである。家族に対する恩赦に対しては、米国の世論も厳しく、8月に実施された世論調査によると米国人の74%が不適切であると答えている。ただ、今回の恩赦の影響を多くの識者が危惧するのはその対象が家族であるせいだけではない。その適用範囲が極めて広い点にある。

 ハンターが既に起訴されている罪だけではなく、まだ明らかになっていない犯したかもしれない罪も含まれるうえに、恩赦の期間も11年とバイデン大統領の在職期間をはるかに超えている極めて「包括的な」恩赦であることが最も問題な点である。

 このような包括的恩赦は、過去にただ一つの前例があるのみである。それはウォーターゲート事件を引き起こしたニクソンに対して後任のフォード大統領が与えたものである。この時は「大統領の陰謀」という国を揺るがす大事件であり、恩赦を与えることに対する理解が全くなかったわけではない。それに対して今回は家族に対する恩赦であり、しかも、ニクソンのケースが大統領任期中に限られる5年であったのに対し、今回は先述の通りバイデンの大統領任期をはるかに超えた11年である。

トランプに道を開いてしまった

 一方、トランプも大統領一期目に多くの恩赦を与えている。中には家族や近しい者に対する恩赦も多く含まれていた。トランプの政治顧問を務めたロジャー・ストーン、元選対本部長のポール・マナフォート、そして、娘婿の父親であるチャールズ・クシュナーなど枚挙にいとまがない。しかし、ほとんどが特定の罪状に限った極めて限られた形での恩赦であった。

 例外は、国家安全保障担当補佐官を務めたマイケル・フリンに与えた恩赦で、特別検察官が告発する可能性のあるものに広く適用されるものであった。こうしてみるとトランプの与えた恩赦は、ニクソンとハンター・バイデンに与えられたものに比べれば適用範囲が限定されているものであったことがわかる。

 ニクソンに対してしか使われたことのなかった「包括的」恩赦を、それよりもはるかに長い期間、しかも、現在発覚してもいない犯罪行為を対象としてバイデンは息子に行使したのである。大統領に恩赦の権限があることは争いのないところだが、このような範囲の広い使われ方が許されるかはまだ定まってはいない。しかし、バイデンがやったのだから自分もできるとトランプが主張する道を開いてしまったのは間違いない。


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