自由民主主義は、結果ではなく手続きに重点が置かれてきた。我々は、たとえ結果が気に入らなくても、そのプロセスを尊重する。手続きを迂回し、制度を弱体化させてでも欲しいものを手に入れようとする動きは極めて危険である。
トランプが政府の主要部門のトップに忠実な党派幹部を任命しているのはそういうことだ。また、バイデンが息子を恩赦に処したケースもしかりだ。現在の問題への不満から、自由民主主義を築き上げてきた制度に見切りをつけることは、近代史における最も重要な成果の1つに背を向けることになる。
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民主主義に懸念される2つの兆候
ザカリアは、韓国、フランス等の政治不安に共通の要素として、世界的に民主主義的制度や政治エリートに対する信頼が失われている点を指摘し、その原因には、経済的、技術的、文化的に急激な変化に社会が直面していることがあるとする。
そして、信頼が失われるだけでなく、組織や制度から特定の個人に信頼がシフトし、民主主義を支えて来た制度や手続きを無視して結果を手に入れようとしているとして、これは民主主義にとって極めて危険なことであると警鐘を鳴らしている。
もっとも、民主主義を擁護する立場からは、独裁主義の国々が存在していることを忘れてはなるまい。その中核はロシア、中国、北朝鮮及びイランであり、相互に助け合う関係にある。
これらの国々では、反対派を弾圧し、立候補を妨害し、司法機関を支配下に置く。問題は、独裁者を称賛する傾向が世界的に見られることだ。
民主主義諸国でも、2つの懸念される兆候がある。1つは、公正で自由な選挙で選ばれた指導者が、国内の分断を背景にその地位を永続的なものとしようとしたり、民主主義諸制度を軽視したりしようとする場合で、韓国やフランスの状況、トランプの問題がこれに該当する。もう1つは、民意が分散してしまうために安定した政権が樹立できず必要な政策が実施できない場合である。フランスはこの例にも該当する。ザカリアは前者の問題に重点を置いているようだが、いずれも、この論説が分析するように、民主主義の諸制度や指導者への信頼が失われている背景がある。