「支援は本当にありがたいことです。でも、決して美談ではないんです。『地域のために頑張ろう』と言うのは簡単です。でも、自分のメンタルが保てるのか、家族を守れるのか、スタッフの安全や安心、働きがいを考えた時にこれからも続けていくべきなのか。自問自答する毎日です」
メディアのエモーショナルな震災報道にも疑問を呈する。
「分かりやすく、簡単に伝えたいのは理解できます。でも、現実はクリアカットにできません。様々な境遇の人が、それぞれの環境で、複雑な思いを抱えながら一生懸命に生きています。被災地の〝ぐちゃぐちゃな現実〟に、そのまま向き合ってほしい」
今後も日本列島を災害が襲うだろう。教訓はないか。
「災害を自分事化するのは、難しいことだと思います。だからこそ、一人でも多くの人に被災地を直接見てもらいたい。そこで起きていることは対岸の火事ではありません。皆さんの身の回りでも心を追い詰めるような〝災害〟が常に起きています。日々の困難に一生懸命に向き合うことが、個人でできる一番の災害対策だと思います」
子どもたちにもっと選択肢を
わじまミラクルず/岡垣未来さん
「震災後、子どもたちには選択肢がないことばかりでショックを受けました」
そう話すのは輪島市に住む岡垣未来さん。高校2年生と小学5年生の子どもを持つ母親だ。
「子どもたちの居場所だった学校の校舎は避難所に、校庭はあっと言う間に仮設住宅団地になりました。こうした決定は子どもたちには何の説明も、意見を言う場もなく決められていってしまう。もちろん、結果としてそうせざるを得ないのかもしれませんが、きちんと説明してあげれば子どもたちも理解をして消化ができるはずです」と子どもの気持ちが置き去りになっている現状に悔しさを滲ませる。
発災後の子どもたちの様子について、「余震の不安で家から出られず、家族としか接することがない状態でした。オンラインで授業が再開しても、画面上でのコミュニケーションには慣れていない。子どもの世界がどんどん狭まっていくようでした」と振り返る。数カ月がたち、何とか子どもに交流の場を提供しようと、連れて行ったのがNPO法人カタリバが開設した「みんなのこども部屋」だった。岡垣さんは、そこでスタッフの誘いを受け、運営を手伝ううちに「何か子どもが楽しめることをしたい」と思い、祭り好きな輪島の子どもたちのために「縁日」を開くことを提案した。
「イベント運営の経験はなく、PTAで手伝ったことがあるくらいでした」というが、カタリバのサポートを受け、ママ友らと「わじまミラクルず」を設立。その後もイルミネーション企画を実施するなど、子どもたちが少しでも笑顔になれるような時間を提供する。
ただ、震災から1年がたち、新たな問題も見えてきたという。同世代の子どもを持つ母親らと、小学校の現状について情報共有をする中で、子どもが先生の言うことを聞けず授業に支障が出てしまったり、仮設校舎や他の学校での間借りをせざるを得なくなった子たちが元の学校にいた子になじめないといったトラブルが起きているという実情も知った。
岡垣さんは「こうした状態は最近、表に出てきたように思います。被災直後は水など生きるための物資を確保することに必死でしたが、今は仕事も再開し、お店も開いていて外食もできる。生活の基盤が整い始めた一方で、心が追い付いていないというチグハグな状態にあります」と指摘する。
震災による急激な環境の変化が子どもたちの言動に影響してしまっていると理解はしているものの、先生も保護者も同じ被災者であり、それを受け止められる余裕がない状態が続いているという。
「震災で子どもたちがリフレッシュをしたりストレスを発散できるような場所が軒並み縮小されてしまいました。でも、再建を待っている間にも、子どもたちはあっという間に成長してしまいます。子どもには『今』必要なものがたくさんあるんです。だからこそ、私たちは、自分たちでできることから、無理のない範囲でやっていきたいと思っています」
