それでも6割は金融政策が支えていたということは可能で、かつ、公的支出によって、他の需要項目が抑えられてしまっていた可能性がある。
マンデル=フレミング・モデルというものがある。政府支出の増大が金利を引き上げ、金利の上昇が為替を増価させて輸出を減少させ、結局、政府支出の景気刺激効果が、輸出減少の景気抑制効果とキャンセルアウトして、結果的に政府支出の増大が景気刺激効果を持たないというモデルである。1990年代以降、政府支出の増大で景気刺激策を行ってきたときには、金融緩和をしていなかったので、政府支出の効果はほとんどなかった。これは、私たちの実感にも合う考え方である。
ただし、今回の安倍政権は大胆な金融緩和と公共事業の拡大を同時に行っている。公共事業は、それ自体の景気刺激効果と、金利を引き上げ、円を上昇させる景気抑制効果を持つ。しかし、今回は同時に金融緩和も行っているので、金利は安定し、為替も低下しているが、公共事業をしていないときに比べて為替の低下が小さい。公共事業を抑えておけば円安がさらに進んでもっと輸出が伸びていたはずである。
輸出が伸びないのは、ほかにも、過去の急激な円高によって生産の海外移転が進んでいることも理由の1つかもしれない。もしくは、海外景気の停滞のためで、円安とは関わらないことなのかもしれない。そうであれば、アメリカ、中国、欧州の回復とともに、いずれ輸出が伸びることになる。
さらに、公共工事のやりすぎで建設単価が上がっている。本誌1月号の本欄に書いたように、不要不急の工事をすれば単価が上がって、他の必要な建設工事の妨げになる。第2の矢の財政拡大政策は再考すべきである。
小泉政権下の金融緩和と緊縮財政の組み合わせという政策が成功したことを再認識すべきだ。
財政政策の効果は小さい。金融政策だけで景気刺激効果があるのだから、財政政策を発動しなければ、財政状況は必ず改善する。景気が良くなって税収が増えるのだから、財政支出を増やさなければ財政赤字は減少する。これは実証済みの政策である。小泉政権の末期と第1次安倍政権の時には、そうして財政再建に成功していた(政府債務残高の対GDP比が06年と07年に低下していた。財務省「日本の財政関係資料」〈13年10月〉18頁)。
金融政策が効かないという思い込みが、日本経済を長期の停滞に追い込み、巨額の財政赤字を作り、財政規律をも破壊している。
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