2025年12月6日(土)

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2025年2月5日

女性の医療費は誰が負担したのか

 雇用している労働者が何らかの理由で傷害(身体傷害のほか、精神疾患を含む)を受けることは、それほど珍しいことではない。当該労働者が生じた傷害の治療に努めたものの、最終的には勤務先を退職することも少なくない。

 労働者が傷害を受けて勤務していた企業を退職するケースでは、使用者である企業には、一般に、「労働災害」、「生じた傷害の治療とこれに伴う労働者の財産的な負担」、「在職中に知りまたは知りえた情報の管理」、という問題が生じる。

 労働者が傷害を受けた場合、使用者である企業の最大の関心事は、それが「労働災害」であるかどうかであろう。「労働災害」であれば、行政機関への届け出など、様々な手続が必要となる。「労働災害」であるにもかかわらず所定の届け出等を怠ることがあれば、「労災隠し」として、法律上の制裁を受けることもある。

 これに対し、労働者からみると、生じた傷害の治療とこれに伴う労働者の財産的な負担が重要な関心事となる。

 労働者が傷害の治療を受ける際には、一般に、医療費の支払いに社会保険が活用される。ただ、医療費の全額が支払われることはない。労働者には自己負担分の支払いが生じる。

 ただ、労働者が傷害を受けた責任が使用者にあるときは、労働者は医療費の負担を免れる。使用者に対し、損害賠償として疾病の治療に要する医療費相当額の支払いを請求することができる(民法415条第1項参照)。

 フジテレビ問題では、相手方女性が治療を受けたことが報じられている。他方で、その際の医療費の自己負担分は相手方女性自身が支払ったのか、フジテレビ側が負担したのか、分かっていない。10時間超におよぶ会見でも、これに関する質問はでなかったし、明らかにされなかった。

「休職」中の賃金は?

 また、「労働災害」であるかどうかとは別に、傷害を受けた労働者をめぐっては「休職」制度の活用が検討される。「休職」は、あらかじめ定められた事情がある場合に、労働者の申請に基づいて所定の期間労務の提供を免除する仕組みである。任意の制度ではあるが、多くの企業で採用されている。

 傷害を受けたことを理由に「休職」を認める企業も多い。「休職」が認められれば、「休職」の間、労働者は傷害の治療に専念できる。ただ、その間は原則として給与の支払いを受けることはできない。いわゆる「ノーワークノーペイ」だ。

 この「休職」に関しても、労働者が傷害を受けたことの責任が使用者にあるときは、労働者は給与の支払いを受けることができる(民法536条2項参照)。

 フジテレビ問題で、相手方女性が退職するまでの間に「休職」をしていたのか、退職するまでの間相手方女性は給与の支払いを受けていたのかについても、これまで報じられてはいない。これらは、相手方女性が傷害を受けた責任の所在、具体的には、フジテレビ、中居氏を相手方女性に紹介した上級管理職の関与の有無を推知させる重要な事実といえよう。


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