2025年12月5日(金)

ビジネスと法律と経済成長と

2025年2月5日

退職時に「守秘契約書」は取り交わされたか?

 在職中、労働者は様々な情報を取得している。労働者が取得している情報は、 ①自らが従事していた業務に関係するもの、②他の役員や社員、取引先の担当者に関係するもののほか、③在職中に起きた出来事に関するものなど、多岐にわたる。

 これらの情報の中には、使用者である企業の財産的な利益が損なわれる、企業の名誉や信用を毀損する、他の役員や社員等のプライバシーを侵害するなどの理由で、第三者に伝達されてはならないものが少なからず含まれている。それゆえ、企業としては、これらの情報が第三者に伝達されないよう、様々な措置を講じることとなる。なお、上記の情報のうち、「営業秘密」に該当するものについては、労働者が在職中であるか否かを問わず、法律(不正競争防止法)によって保護される。

 労働者の在職中は、企業との間の労働契約(就業規則を含む)によって情報の保護が図られる。労働者が正当な理由なくこれらの情報を第三者に伝達すれば、労働契約に基づく義務 (いわゆる服務規律)に違反したとして懲戒処分に処せられるともに、企業からこれによって生じた損害の賠償を請求されることになる。

 他方、労働者の退職によって、企業との間の労働契約関係は消滅する。それゆえ、労働者が退職した後は、労働契約とは別の方法で情報の保護を図る必要がある。

 広く行われているのは、「誓約書」ないし「守秘契約書」の取り交わしである。具体的にいえば、入社または退職する際、企業があらかじめ「在職中に知りまたは知りえた情報は、退職後といえども、正当な理由なく第三者に漏らしません」との内容を記載した書面を作成しておいて、労働者にそれにサインをさせる方法である。サインした労働者は、書面に記載されている内容に拘束され、退職した後であっても、使用者に対して「在職中に知りまたは知りえた情報」を第三者に伝達してはならない義務(いわゆる守秘義務)を負う。これに違反すれば、労働者は、企業からこれによって生じた損害の賠償を請求されることになる。

 ただ、在職中に企業との間で何らかのトラブルが生じたケースでは、退職する際にあらためて上記の書面が取り交わされることが多い。入社後に生じたトラブルの内容は(入社する際に取り交わされた)書面に記載されている「在職中に知りまたは知りえた情報」には含まれていない、トラブルの内容を第三者に伝達することは守秘義務には違反しない、と主張されるおそれがあるためである。

 フジテレビ問題では、相手方女性がその後に退職したことが報じられている。ただ、フジテレビと相手方女性の間で上記のような守秘義務が生じる書面が取り交わされたのかについては、これまで報じられていない。

 仮に、書面が取り交わされておりかつ「在職中に知りまたは知りえた情報」の中に中居氏との間のトラブルの内容が含まれているとすれば、フジテレビが相手方女性に「口封じ」をしたことになる。


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