2025年12月5日(金)

ビジネスと法律と経済成長と

2025年2月5日

 他方で、フジテレビは、会見の中で、相手方女性のプライバシーへの配慮を理由に回答を拒絶していた。陰で相手方女性に「口封じ」をしつつ、公の場では相手方女性のプライバシーへの配慮を理由に回答を拒絶していたとすれば、フジテレビは自らに不都合な事実を隠ぺいしたと受け取られても仕方がない。さらにいえば、「口封じ」の対象となる中居氏との間のトラブルの内容に、フジテレビの役員らが関係する情報が含まれているとすれば、相手方女性の犠牲のもとで特定の役員や社員を擁護していることになる。

 このように、相手方女性がフジテレビに対して依然として守秘義務を負っているかどうかは、この問題に対するフジテレビの姿勢を表す重要な事実の1つであろう。

国民への“背信行為”にもなる

 相手方女性とは別に、フジテレビ問題では、フジテレビの「職場環境」についても注目しなければならない。近年、職場における「ハラスメント」が社会の関心を集めている。職場における「ハラスメント」は、従業員の「職場環境」をめぐる問題である。企業は、「サステナビリティ」すなわち中長期的な持続可能性の観点から、「ハラスメント」の防止、良好な「職場環境」の維持・保全に取り組まなければならない。

 フジテレビ問題では、上級管理職が中居氏との会合に誘う際、相手方女性に「仕事につながるから」と発言した、と報じられている。当該発言がどのような意図で行われたかは別にして、当該発言から推知されることは、フジテレビにおいては、特定のタレントの歓心を得るか否かが、在職中に従事する業務内容に影響する可能性があるという事実である。

 もとより、国から公共の電波の利用を許可されているテレビ局は、本来、国民に対して良質な番組・コンテンツを制作する責務を負う。それゆえ、テレビ局で働く従業員が従事する業務内容も、本来このような観点から決定されなければならない。特定のタレント、スポンサーの関係者、テレビ局の上層部その他のステークホルダーの歓心の有無、個人的な好き嫌いによって決定されることは、およそあってはならない。

 同時に、従業員にとって、どのような業務に従事するかは「自己実現」の手段でもある。 特定のステークホルダーの歓心の有無、個人的な好き嫌いによって従事する業務内容が決定されることは、従業員の「自己実現」を損なうとともに、良好な「職場環境」であるとはいえない。

 上級管理職が「仕事につながるから」と発言していたとすれば、それ自体が重大な「ハラスメント」 である。フジテレビの対応には、「ハラスメント」の防止、良好な「職場環境」の維持・保全、ひいては「サステナビリティ」の観点からも疑問があるところである。

 なお、テレビ放送に関しては、国民は、テレビ局が制作して放送する番組コンテンツを一方的に視聴させられる立場にある。この意味で、国民は「囚われの聴衆 (Captive Audience)」 である。それゆえ、良質な番組・コンテンツを制作するというテレビ局の責務は、国民全体に対するものでもあるのである。

 したがって、上記のような、特定のステークホルダーの歓心の有無、個人的な好き嫌いによって番組の制作のあり方がゆがめられることがあれば、それは、テレビ局で働く従業員の「職場環境」の問題にはとどまらない、国民全体に対する背信行為にほかならない。

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