ウクライナは優勢な立場にはなく、米国のおかげで切り抜けられるなどとトランプ大統領が言っている間はゼレンスキー大統領もなんとか合わせようとしていたが、こうなるとトランプ大統領の舌鋒は止まらず、「ゼレンスキー大統領には感謝の姿勢がなく、それはよくない」と繰り返した。紅潮した頬からトランプ大統領が本気で怒っているのが伝わってきた。このとき見守っていたウクライナの駐米大使が、目を覆って俯くのをカメラはとらえている。
ゼレンスキーはあえて論争を仕掛けたのか
結局、トランプ大統領は、「テレビ的にいいのが撮れただろう」と言って記者団を外に出した。予定されていた昼食会も共同記者会見も取り消し、合意文書への署名も見送りとなった。
この破談について、各方面はそれぞれの立場から反応した。共和党の議員はトランプ大統領の肩を持った。グラム上院議員は、ゼレンスキー大統領との交渉は、ほぼ絶望的な状況だったとして、辞任して別の人物を送って来るか、自身が変わる必要があると述べた。
一方、民主党の議員、例えば、シューマー上院院内総務は、「トランプとバンスはプーチンの汚れ仕事をしている。上院の民主党員は自由と民主主義のための戦いを決してやめない」と発信した。
海外では、欧州連合(EU)のフォンデアライエン委員長が、ゼレンスキー大統領にむけて「あなたの尊厳は、ウクライナの人々の勇敢さを称えるものです。強くあれ、勇敢であれ、恐れを知らぬ者であれ。あなたは決して一人ではありません」と発信した。一方、ロシア連邦安全保障会議のドミトリー・メドベージェフ副議長は、「その不遜なブタは、ついに大統領執務室で厳しく叱責された」と発信した。
今回のゼレンスキー大統領のバンス副大統領への反論が、思わぬ形でトランプ大統領の機嫌を損ねたのではなく、ウクライナの資源を求める一方、北大西洋条約機構(NATO)加盟や二国間の同盟などの安全の保証は与えようとしないトランプ政権の姿勢に、もとより今回の合意はありえないとして、あえて自らの立場を意識的に発言した可能性もゼロではない。ただ、トランプ大統領のメンツを公衆の面前で潰すのは良い手とはいえない。
トランプ大統領〝誕生〟のきっかけとされる「あの日」
思い出されるのは、2011年4月30日に開催されたホワイトハウス特派員協会晩餐会のことである。この日の主賓は時のオバマ大統領であった。
当時、トランプが「オバマは外国生まれであって大統領になる資格はない」と批判し続けていたが、オバマはそのトランプもその晩餐会に招待していた。外国生まれ疑惑自体は、その晩餐会の前にオバマが出生証明書を公開することで解決していた。
黒い蝶ネクタイをして正装して出席したトランプを待っていたのは、オバマからの仕返しであった。スピーチの中で、オバマが自らの出生証明問題が解決して最も喜んでいる男としてトランプを紹介すると、テレビカメラが彼をクローズアップした。
