マルチスキルの形成で対応
同社では、荷主の多様な要望に応えるために、人員に十分な余裕を持たせるとともに、従業員のマルチスキル化を進めてきた。積み込み先や納品先ごとに、地図、構内図、作業方法、注意事項などをまとめたマニュアルを作成し、誰が担当してもミスなく仕事をこなせる仕組みを作った。
一般的にドライバーと各荷主の仕事は固定化されており、1人のドライバーが運送、待機、附帯業務までを担うため労働時間が長くなるし、担当ドライバーが休んだり、辞めたりした時にミスやトラブルが起きやすくなる。
対して同社では、仕事とドライバーを固定化せず、休む人が出ても仕事の穴埋めができる体制を組んでいる。また、マニュアルを作成していることで、傭車(他社の車両を借り受けること)にも安心して依頼できるようになった。それにより、労働時間を見ながら、ドライバーを休ませることもできるようになった。
また、長距離輸送、集配、倉庫、事務所など各部署で余裕ある人員配置を組むことで、相互に仕事を補完し合う体制を作った。普段は倉庫作業をしている元ドライバーが集荷や配達に行くこともあるし、その逆もある。
例えば、積み込みでどうしても長時間の待機が発生する荷主がいる。この場合、集配ドライバーがあらかじめ集荷し、幹線のトラックの積み込み時まで自社の倉庫で荷物を一時保管する。こうすることで、支線と幹線のドライバーを別にすることができ、さらに前述の納品時のパレット化も可能になる。
また、復荷の納品時に長時間の待機が発生する荷主もいる。この場合、事前に幹線のトラックで荷物を引き取り、自社の倉庫で保管することを提案したうえで、必要な商品を、必要な時に、必要な数だけ納品することに変更した。こうすることで、幹線業務と配達業務を切り離すことができ、ドライバーの労働時間を短縮できた。
このような体制は直ちに構築できるわけではない。同社は、年月をかけて給与体系の改定を重ねてきた。柔軟な人員配置を可能にするために、変動給部分を減らし、固定給部分を増やした。その結果、長時間働くインセンティブは小さくなり、労働時間の短縮を進めやすくなった。
むろんこれらの改革を進める過程で、離職していった従業員もいる。しかし継続している従業員は、総じて定着率が高く、人手不足とは感じていない。結果的に、2020年には、ドライバーの1カ月間の時間外労働は80時間以内に収まった。
さらに時間短縮を進めており、現在は、すべての運行で改正された改善基準告示を遵守できており、月の時間外労働は70時間以下となっている。森川社長は「改正前の改善基準告示を完璧に守っていたら月80時間以下になるはずだ。今慌てている会社は、以前から告示を守れていなかったのだろう」と見ている。さらに、来年には大幅な給与体系の変更を計画しており、残業時間を月60時間以下にすることを目指している。
このように、中小においても「2024年問題」を契機として前向きに改革を行っている運送会社もある。しかし、労働時間規制を守るために、既存の仕事からの撤退を余儀なくされたというケースも多い。次回では、引き続き現場の声を基に、そうした実態を見ていく。