2025年2月11日(火)

Wedge REPORT

2025年2月4日

 2024年の秋以降、労働時間の制度をめぐって気になるニュースが続いている。9月の自民党総裁選では複数の候補が「働き方改革」の見直し論を公約に含め、強い反発を呼んだ。10月には全労連が、厚生労働省内で議論されている労働基準法の適用除外(デロゲーション)拡大に対して「STOP!労働基準法無効化」の反対署名を立ち上げた。さらに12月上旬には経団連が「ホワイトカラーを対象とした労働時間法制の見直し」を盛り込んだ政策提言を発表。25年の年明け早々、労働法や労使関係の専門家が集まる厚労省の「労働基準関係法制研究会」が労働時間規制の緩和にも踏み込んだ報告書をとりまとめた。

(tetsuomorita/gettyimages)

 日本の労働法制は長年、超過勤務(残業)時間に関する明確な規定がなく、長時間労働の温床となってきた。過労死やうつなどの深刻な健康被害が相次ぐ中、ようやく19年の働き方改革関連法で、初めて残業の上限時間が「原則月45時間・年間360時間まで」と数値で明確化された。より持続性の高い働き方の運用が、大企業だけではなく、中小企業にも少しずつ広がり始めた矢先のことだ。

 そこで突如、同時多発的に政財界に湧き上がった「改革・規制の見直し論」。今、日本の労働時間をめぐって、何が起こっているのだろうか。それは歓迎すべき改革か、それとも警戒すべき後退なのか――。

働き方改革「2024年問題」の難局

 「今は、働き方改革へのバックラッシュ(反動、揺り戻し)が起きていると感じます」

 働き方改革に関する企業や団体へのコンサルティング業務を手掛けるワーク・ライフバランスの小室淑恵社長は、そう現状を指摘する。その背景には、19年4月に施行された改正労働基準法、いわゆる「働き方改革関連法」がある。

 過労死やうつなどの長時間労働による健康被害を鑑み、それまで日本の労働基準法に明記のなかった時間外労働の上限規制や、有給休暇の義務取得、勤務間インターバル制度の努力義務などが盛り込まれた改正法。医療、建設、運輸などの業界には5年の猶予が与えられたが、その期限が終わり、ほぼすべての業界が取り組まねばならなくなったのが、この24年だった。

 「ですが猶予期間にも労務改善や業務量の調整が進まなかったところでは、いざ24年を迎えて一斉に改正法の規制に従うと、仕事が全くこなせないことに直面しました。その要因の一つが人手不足なのですが、それは5年の猶予期間の間、先に働き方改革を進めて労働環境を改善してきた業界に人材が流出してしまったからこそ起きた現象でした」と小室氏は話す。

 5年の遅れを取った業界では、働き方を理由に人材の流出が加速し、ますます人が集まらない。人手が足りないので労働時間を短くしたら仕事が回らず、業績が落ちてしまうと危惧する。働き方改革の見直しを求める反動的な意見の根底にはこうした悪循環があるという。

 しかもこのバックラッシュには「悪意がないのが難しい」と小室氏は続ける。

 「改革の見直しを求める人々は、日本の経済成長を妨げないためにと、良かれと思って意見をしています。19年に、法の施行が5年間猶予されたのも、自らの業界を守るつもりでロビー活動をして獲得したのでしょう。ですが現実には、働き方を変えないことこそが、成長を妨げる一因となりました」


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