2025年2月7日(金)

Wedge REPORT

2025年2月4日

働き方改革は日本経済の起爆剤

 労働時間規制の適用は、長時間労働で維持してきた職場には無理筋に思えることもある。しかし「ワーク・ライフバランス」の社名を掲げて約20年、長時間労働を脱却するコンサルティングを行ってきた小室氏には、労働時間規制による働き方改革こそが日本経済の起爆剤と、全く違う地平が見えている。

 「意欲も能力もありながら、残業前提の働き方が難しいため、第一線の労働現場にいられない人が多くいます。日本では今、四大卒の女性の6割の年収が200万円以下なのですが、それは残業のない非正規や時短勤務での、サブ的な働き方を余儀なくされているから。日本は男女両方に教育リソースを注いでいるのに、社会に出たら、その半分の人材しか正社員として意欲と能力を発揮できない環境になっている。本当にもったいないことです。

 65歳から75歳の年齢層は1700万人いる。また、現在パートで働いていて、正社員を打診されているけれども正社員は残業や休日出勤がマストなので正社員を断っているという女性は290万人います。ここが未曾有の潜在労働力なのです」

 日本はシニア世代の労働意欲が高い点も特徴で、年齢に合った労働時間で定年後も働きたいと願う熟練労働者は多い。こうした人手不足を補うブルーオーシャンは国内にあるのに、長時間労働がボトルネックとなり、そのアクセスを妨げているのだ。

 労働環境を整え、さらに多くの人材が意欲と能力を発揮できたら、どうなるか。働き方改革の分水嶺にある昨今は、日本経済の爆発的な成長前夜とも言える。

 「一人が長時間労働で握っている業務をモジュール化(区分け)して、属人化を解消し、時間制限のある働き手にもモジュールごとにパス回しできるようにする。従来やってきた長時間労働によって業務量をこなす方法を『縦方向の経済成長』だとすると『横方向の経済成長』です。

 今後は無制限に長時間労働できる人の数は減る一方なので、縦方向には未来がありません。一方で、横方向の経済成長によって人手不足を解消し、業績を飛躍的に向上させた例は、国内の中小企業に続々出始めています」

 そうした業績向上の成果は、労働者の所得増や生活改善にも繋がる。回転寿司チェーンを営む銚子丸(本社千葉県)は5年前から働き方改革に取り組み、総労働時間を14%削減、有給取得率は改革前の4倍にした。寿司職人たちの離職率が高かったことから女性パート従業員も板前に育て、商品の安定化を果たすことができた。さらに、女性パート従業員が店のサービスにもアイデアを出せる環境にしたことにより、家族連れ向けのお土産の充実など、サービスを向上させた。純利益は過去最高を記録し、24年1月には、給与のベースアップ10%を実現している。

「新しい経済成長」を止めないために

 改革を急ぐべき理由は、国外にもある。人手不足は日本だけの問題ではなく、高度な教育を受け職業倫理の高い日本の労働者は、他の先進国も虎視眈々と狙っている存在だ。調理師や介護士、看護師・医師など有資格者の流出は、すでに始まっている。有資格エッセンシャルワーカーの移住を受け入れる西欧圏では、日本からの移住者も度々見受けられるようになっている。国レベルでの人材奪い合いがさらに加速する時代に、前時代的な長時間労働に固執して働き手を失ってしまうのは、あまりに惜しい。

 時間と労力を仕事に全振りできるごく一部の人材ではなく、生活と両立しながら働くより多くの人材を活かす、働き方改革。その促進こそが、令和日本の経済成長の鍵を握っている。改革を進めるか、停滞させるか。その力動が如実に現れる労働時間規制の議論に、今後も注目していきたい。

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