紙ストローvsプラストロー
紙ストローが環境によいとされる理由として、紙ストローは生分解性であり、プラストローと比較して短期間で土壌や水中で分解されることがよく強調される。
実際、微生物の働きによって紙ストローは短期間(数カ月程度)で分解されるため、ごみとして海へ流れ出ても、海洋生物への危険性は高くない。また、専門の国際機関等もマイクロプラスチックによるヒトへの健康リスクが今のところ否定的なものの、詳しい影響はまだわからないため、被害想定を最大限に見積るというのは一つの考え方としてはあるかもしれない(環境省(2019):「海洋中のマイクロプラスチックの生物・生態系影響に関する環境省の主な取組について」)。そうした意味で、「海洋生物への影響のみ」を考えると、一定の論理的な妥当性があるようにも思われる。
しかし、別の角度から考えるとまったく様相が変わってくる。たとえば、LCA(Life Cycle Assessment)と呼ばれる環境評価の手法がある。これは、製品の原材料の採取から廃棄に至るまでのライフサイクル全体における環境負荷を、それぞれの地域事情なども考慮したうえで仮想的・定量的に評価する手法で、世界的に幅広く使われている。
この手法を用いた紙ストローとプラストローの比較研究がいくつか発表されている。たとえば米国のストロー事情を仮定して、地球温暖化、酸性化、富栄養化、オゾン層破壊、淡水への毒性、土壌への毒性、ヒトへの毒性、化石資源枯渇という8つの観点から評価した研究がある(Gao & Wan (2022): “Life cycle assessment of environmental impact of disposable drinking straws: A trade-off analysis with marine litter in the United States”, Sci Total Environ, 817:153016 ) 。その結果、廃棄後の処分方法(焼却or埋立)にかかわらず、オゾン層破壊と化石資源枯渇以外の6観点において、紙ストローのほうがプラストローよりも環境負荷が高いことが示されている。
8つの観点を統合した複合スコアの分析では、プラストローよりも紙ストローのほうが約1.5~2倍程度環境負荷が大きく、また、仮に海洋ごみ率が変化しても、それぞれの環境負荷の複合スコアにほとんど変化が見られない。プラストローを紙ストローに置き換えても環境への影響はほとんどないだろう(≒効果がない)と結論付けられている。
同様の結果は、ブラジルを仮定した場合の研究などでも示されている(Zanghelini, et al. (2020): “Comparative life cycle assessment of drinking straws in Brazil”, Journal of Cleaner Production, Vol.276,123070)。韓国でも近日中にLCAを実施し、その結果に基づき紙ストローの是非を再検討するようだ(KIM JU-YEON (2025): “Korea to 'review' plastic straw ban as U.S. turns its back on paper”, Korea JoongAng Daily) 。
そもそも、二酸化炭素(CO2)の排出量は生産物の重量におおわく相関する。紙ストローよりもかなり軽いプラストローの方がCO2排出量は少なく、「環境によい」と推定されるのである。例外として、南アフリカではプラストローの主原料であるポリプロピレン生産に環境負荷の高い石炭を使用しているため、紙ストローのほうが CO2 排出量は低くなるといったことはある(Chitaka, et al. (2020): “In pursuit of environmentally friendly straws: a comparative life cycle assessment of five straw material options in South Africa”, LIFE CYCLE MANAGEMENT, Vol.25, pp.1818–1832 )。しかし、先の米国データに基づくと、焼却する場合の紙ストローのCO2排出量はプラストローの約1.4倍、埋め立て処分する場合ではおよそ3.1倍程度のCO2が排出されるのだ(図)。

