2025年3月26日(水)

「最後の暗黒大陸」物流の〝今〟

2025年3月12日

 なお、「帰り荷」の確保のために下請けの仕事を受ける運送会社は少なくない。最低限の原価しかまかなえないほど低い運賃であっても、「空気を運んで帰るよりはマシだ」と考えられてきたためだ。そうした業界の慣習のうえに、「帰り荷だから」と称し、安く仕事を受託し、下請けに仕事を委託する元請け業者もある。

 だが、その帰り荷は、誰かの「行き荷」である。帰り荷だから安くていいという発想が、業界全体の運賃の引き上げを困難にしている。

「適正価格をもらえば地場産業が傾く」

「改善基準告示を厳格に守ろうと思えばね、今より3割、いや4割増しの運賃をもらわないと運べないですよ。でもね、そんな運賃もらったら、荷主はどうなりますか」

 そう話すのは、東北地方で鉄を輸送するドライバーだ。

 3~4割増の運賃が実現すれば、少なくとも値上げされた分の一部は商品価格に上乗せせざるを得ない。つまり、この地域の鉄の価格が上昇することを意味する。荷主も市場競争にさらされているため、商品価格が上がれば、海外を含む他地域のメーカーにシェアを奪われる可能性がある。

「荷主が傾けばね、我々だって運ぶものがなくなるんですよ」

 政府は「適正価格」を呼びかけている。だが「適正価格」を収受することが、望ましいのかどうか悩む運送会社が少なくない。

 大消費地である首都圏には、日々全国から大量の貨物が届く。首都圏から離れれば離れるほど、高速代金も燃料費も高くなる。輸送時間や日数が増える分、ドライバーの人件費も高まる。

 それらを加味した適正な運賃が実現されれば、地方の運送会社が受け取る運賃額は今よりも上がるはずだ。だが、運んでいる商品に、上昇した運賃分に見合う付加価値をつけることは容易でない。運送会社にとって、荷主が市場で生き残れるかどうかは、自社の存続に関わる。

 そしてこれは、荷主と運送会社だけの問題ではない。地場の産業を守れるのか、地元の経済活動が維持できるのかという問題でもある。

 先のドライバーは次のように続けた。

「東京はすごいですよ。賃金だってビックリするほど高くて、人も多い。みんないい車乗って、綺麗な服を着て。地元に帰れば、人は少ないし、車は〝軽〟ばっかり。でもね、俺はここで生きてきたし、ここが好きだし、それなりに幸せに暮らしているんですよ。東京から離れているっていうだけで、よりいい商品を作らないと地元で生きられないんですか。『適正運賃もらえ』なんて、無責任に言ってくれるなって思うんですよ。そんなの自分たちの首絞めるばかりでしょ」


新着記事

»もっと見る