また、主要7カ国(G7)のオンラインによる首脳会合でも、ロシアによるウクライナ侵攻をめぐる共同声明の文言について、ロシア批判の挿入を要求する英仏独首脳とこれに反対する米大統領との間の調整が最後までつかず、共同声明自体の発表も見送られた。ここでも、米欧間の大きな立場の相違が浮き彫りになった。
EUの地盤沈下
このように、世界を大混乱に陥れてまで自己主張と強圧的姿勢を取り続けるトランプ氏の態度は、第一次政権(17~21年)当時と比較しても、異常なほど際立っている。
トランプ暴走の背景にあるのが、近年のグローバル・パワー・シフトだ。具体的には、EUの地位低落、中国経済の不振の二つがある。
まず、EUについては、01年「9・11テロ」以後、大規模なテロとの戦いが長期化するにつれて米国の足かせとなり、とくに07年以来、同国経済の減速が露呈し始めたころから、欧州諸国の間では、米国との「デカップリング(切り離し)」論が台頭しつつあった。
そして一時は、「アメリカ一極支配」から脱し、独自の通貨「ユーロ」に根差した独自の経済体制、さらには独自の新たな政治機構の樹立まで唱える動きまで見え始めていた。
ところがその後、アイルランド、ギリシャ、ポルトガル、イタリアなど加盟国の間で深刻な財政危機や信用不安が露呈したほか、20年には、英国がEU離脱に踏み切ったことなどをきっかけとして、EUそのものの地位低落を招き、今日に至っている。
とくに、英国離脱後のEU経済の停滞は深刻化してきている。ドイツ経済を見ると、19年第4四半期以降、昨年末まで5年間ほぼ横ばい状態を続けており、成長見通しも立っていない状態だ。同期間中のフランス、イタリア、スペイン各国経済も、成長が見られるものの、2.9~5.6%程度にとどまっている。
この間、11.4%の成長を記録した米国経済との差は広がる一方だ。「Capital Economics」の指摘によると、停滞要因として、人口動態、ハイテク分野の起業家精神欠如など、経済構造的問題が挙げられるという。
10年ほど前までは、欧州安全保障の米国依存からの脱却をめざし、独自の「欧州軍」創設構想まで持ち上がったことがあったが、その後、足踏み状態が続いている。それどころか、地続きの隣国であるウクライナの安全保障確保でさえも、それぞれ自国の経済的事情から立ちすくみ、依然として米軍依存から脱却できていない。
3月に入り、トランプ―ゼレスンキー首脳会談決裂を見かねたマクロン仏大統領はじめEU各国首脳が、ようやく欧州諸国による対ウクライナ軍事支援増強に向けて動き出したが、各国の思惑があり、具体的にどのような安保強化策が打ち出せるかは不透明だ。
トランプ政権が、ウクライナ休戦協定締結に向けて、欧州同盟諸国抜きでロシアと直接交渉に乗り出したのも、その背景には明らかに、EU地盤沈下がある。
翳りがささやかれ続ける中国経済
では、米国最大のライバル、中国はどうなのか。
中国は21世紀に入り、北京五輪(08年)、上海万博(10年)の成功により、国家としての世界的評価を高め、11年にはついに、日本を抜いて世界第2位の経済大国にのし上がった。その後も躍進が続き、30年代には軍事力含め、米国を追い越し、世界ナンバー・ワンの超大国となるとの見方が米欧諸国で広がった。
ところが最近では、中国経済の不振が伝えられ始めている。例えば、物価変動の影響を除いた中国の24年の国内総生産(GDP)は、前年度(5.2%増)から鈍化し、5.0%増にとどまった。
成長の足かせとなっているのが、新型コロナ危機以来の不動産不況と個人消費の伸び悩みであり、24年の不動産販売が前年度比マイナス14.1%、そして個人消費はわずかにプラス3.5%となった。とくに個人消費については、コロナ以前の19年に8.0%の伸びを示したのと比べても、大きな落差がある。