そうした議論を方向づけているのは、大阪市議会が採用する中選挙区制という選挙制度だと考えられる。1選挙区から1人を選ぶ小選挙区制と異なり、1選挙区から複数人を選ぶ中選挙区制では、議員同士がライバル関係になる。例えば、福祉政策が争点になった時、地元の有権者に自分をアピールして他の議員と差別化する効果的な手段は、福祉施設などその地域でしか使えないハコモノを誘致することだ。市全体の福祉水準を向上させるなどの全体志向には至りにくく、地元への個別的な利益誘導を優先しやすいのである。
同じ政党の議員が選挙区でライバル関係になると、意見の調整が難しくなることも問題だ。政党ごとに議員団はあるが、一人一人の議員が尊重される「集団」としての性格が強く、共通の目的を掲げて規律を重視する「組織」としては弱い。政党のリーダー間の交渉によって大きな方向性が決まることは難しく、個々の議員たちに各論で配慮しないと話が進まないことになる。
大阪都構想を実現させるタイムリミットは、府議会で維新が単独で過半数を制する可能性がある15年4月の統一地方選挙までだろう。現時点では、次の府議選で前回同様の圧勝をすることは難しいように思われるからだ。だが、公明党と仲違いしてしまった市議会では、大阪維新の会は、やはり中選挙区制の壁に突き当たる。
市議会で維新が少数派であるという現状を打破するためには、大阪都構想の正統性を確認するためのイレギュラーなチャレンジが必要になる。今回の出直し選挙は、市長選挙の勝利をもって大阪都構想の信任とみなすという手法であり、今後はリコール(解散請求)に踏み切る選択肢も議論される。しかし、仮に必要な署名が集まり、リコールに成功したとしても、選挙制度を考えると、再選挙で議会の構成が変わる可能性は低い。その背景には、やはり中選挙区制がある。
大阪市議会で議席の過半数を取るには、例えば、5人区で3人当選する必要がある。同じ維新の候補者間の競争を強いられ争点が拡散する中で過半数を獲得するのは困難だ。大阪維新の会が最も勢いのあった11年の市議会選挙では、3人区で候補者を2人出すなどして積極的に攻め、一部で成功した。しかし、西淀川区のように3人区で2人とも落選した例もあった。
現行制度では、どうやっても最後は議会なのだ。だから、議会の構成が変わりにくい選挙制度では、リコールすら決定的に状況を変える手段にはなりにくい。議会の構成にかかわらず、リコールの成功・議会の不信任という事実をもって大阪都構想への信任として解釈する─今回の出直し市長選以上にイレギュラーだが、そのような「民意」を梃子としても、議員が反対する大阪都構想を強引に進めることは極めて困難である。
維新が大阪都構想の実現性を重視するならば、特別区間の平等や将来の効果をめぐる論点をクリアし、公明党をはじめとした議員と妥協する形での分権型の性格をさらに濃くしていくのではないか。
WEDGE4月号 第2特集「『大阪都構想』と橋下改革を検証する」
◎「大阪市の解体」が都構想の本質
◎橋下徹の功罪とポスト都構想の必要性 吉富有治 (ジャーナリスト)
◎大阪はこれからも大都市を目指すのか 砂原庸介(大阪大学准教授)*本記事
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