2025年4月20日(日)

Wedge REPORT

2025年4月9日

SNSの情報にも「警戒」

 兵庫県知事選挙の結果に平口氏はショックと驚きを受けていた。「『SNSの時代』『ネット時代』と言われていたが、結果に影響を及ぼすという大きなうねりを見せた。千葉県知事選でも今までにはない何かが起きるのではないかという姿勢で臨まないといけないと感じた」と振り返る。

 立花氏がすでにXで出馬意向を書き込んでいたため、SNSや動画を事あるごとにチェックした。それは、政治担当記者だけでなく、デジタル編集担当者も目を配った。

 選挙戦は現職の熊谷氏が対立候補を引き離し優勢であるとされていたが、「万一、スキャンダルや『内部通報』といった情報がまことしやかに飛び交えば、混乱しかねないという不安はあった」と平口氏は語る。

 対策は立花氏に対してだけでなく、SNSへも向けられた。選挙戦に向けて「千葉県知事選ファクトチェック取材班」を設立。現場での取材経験もあるデジタル編集部の記者2人がXやインスタグラム、TikTok、Youtubeなどで発信される選挙に関する情報を監視。ある程度の量で拡散されて信じ込む人が一定数生じる一方で、取材班が「真偽不明」と判断した場合、取材をし、真偽について記事で報じることとした。

 結果的に真偽不明の情報が選挙結果に影響力を及ぼすほどの量で飛び交うことはなく、記事を出すことはなかったが、「起きてからでは遅い。何かが起きた時に対応できる」体制を整えていた。報道機関によるファクトチェックは、どこまで真偽不明情報を検証できるのかという課題があるかもしれないが、こうした準備をしておくことは一定の意味があると言えるだろう。

立花氏をどこまで扱うべきなのか

 千葉県知事選では、立花氏は選挙活動のほとんどを兵庫県や大阪府で行い、兵庫県政に関する主張を繰り返した。また、政治団体「つばさの党」の黒川敦彦代表も立花氏を応援するとして、千葉県内外で活動した。千葉県の知事を決める選挙の報道で、地元紙がどこまで取材し、報道するかは頭を抱える問題だった。

 「立候補後の第一声は載せたいということになり、県外でやることになれば、加盟している共同通信社に取材内容をもらえるよう調整もしていた」と平口氏は話す。結果的に立花氏も黒川氏も県内で第一声をしたため、取材し、通常通りの記事にした。その後も県外での活動も配信動画を観るなどして警戒していた。

 選挙報道において、新聞やテレビは立候補者を、選挙活動や掲げている政策を取り上げる「主要候補」と、名前のみを紹介する「泡沫候補」に分ける。昨年の東京都知事選のように多数の候補者が乱立してしまった際に、限られた紙面や放送時間でより有効な情報を伝えるためだ。

 兵庫県知事選で、神戸新聞は立候補者7人のうち、立花氏ともう1人を泡沫候補として、紙面で名簿のみの紹介とした。立花氏が「当選を考えていない」と2馬力選挙を展開していたためだったのだが、SNSなどを通じて「なぜ、立花氏を載せないのか」「公平な報道ではないのか」といった批判が飛び交った。「オールドメディアが都合の悪い情報を隠蔽している」といった憶測を広めてしまったのだ。

 千葉県知事選で、東京新聞は立花氏と黒川氏を泡沫候補として扱ったが、記事内に「千葉県知事選で、東京新聞は、政党助成法の政党要件を満たす政党から推薦・支持を受けている熊谷、小倉両氏を主な候補として扱います。黒川、立花両氏は、政党要件を満たす政党から推薦・支持を受けていないことや、千葉県政と直接関係ない主張を掲げていることなどから判断し、主な候補として扱いません」という「お断り」を入れた。

 取り上げなければ「隠蔽」や「差別」といった批判が起き、取り上げれば選挙戦には関係のないとも言える主張を広く伝えることになる。どちらにおいても、彼らを利する結果を呼んでしまうとも言える。


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