新聞やテレビの「慣例的」選挙報道
千葉日報は千葉県知事選の出馬表明者が名をそろえつつあった2月14日に、こうした見出しの記事を1面トップで掲載した。
立花氏が出馬を表明した際に現職の熊谷俊人氏を応援する「2馬力選挙」行うと発言したことに対し、2馬力選挙が選挙の公平性から問題があることを有識者の声も交えながら指摘する記事だ。一見、政治の問題点を指摘するよくある記事に見えるかもしれないが、千葉日報をはじめとした新聞にとっては、これまでにない記事だった。
選挙の告示が迫ってくると、新聞やテレビは「公平性」を意識し、特定の候補者だけに焦点を当てた記事やニュースを報じることをしなくなる。それは、現職の知事が交通安全運動など選挙とは関係のないイベントに参加したものであっても、写真を載せないといった対応を講じる。
これは、選挙期間中となるとさらに徹底され、各候補者が立候補を届け出た後の最初の演説である「第一声」を報じる記事では、各候補者の発言や描写の行数をそろえる。候補者の人柄を紹介する「横顔」でもほぼ同じ情報量の記事として扱う。特定の候補者にフォーカスを当てた報道はやらないようになってしまう。
これは、報道各社が規定などで定めたものではなく、「選挙報道とはそういうもの」と続けてきたものだ。
こうした新聞やテレビの「慣習」による弊害が表出したのが兵庫県知事選だった。斎藤氏のパワハラ疑惑に関する様々な情報や、対立候補であった稲村和美氏の経歴や政策に関する情報がSNSで飛び交った。中には真偽不明の情報も散見され、それが拡散される事態も起きていた。
これに対し、新聞やテレビといった既存メディアは「公平性」という観点から、それぞれの候補者だけに焦点を当てた記事を出すことはほとんどなかった。既存メディアよりもSNSが情報量として勝り、それが真偽不明であったとしても、有権者が投票を考える「情報」として蓄積されていってしまった。これが斎藤氏の再選に寄与してしまった一面とも言えた。
兵庫県知事選の推移と結果を見ていた千葉日報社編集局次長・デジタル編集統括の平口亜土氏は「立花氏という特定の候補者の『2馬力選挙』という行為を、選挙前に〝特出し〟して大々的に報じることは、これまでの我が社の慣例ではできなかっただろう。しかし、千葉県の地方紙として読者に届けるべき情報として、腹をくくって記事にした」と話す。
記事はYahoo!ニュースのトピックスに採用され、多くの読者の目に留まり、SNSなどで議論が巻き起こった。こうした批判への議論を受けてか、立花氏はその後、2馬力選挙の取り下げを決めた。平口氏は「立花氏は、熊谷氏が『迷惑だ』と言ったことが取り下げの理由と説明したが、我が社の記事がプラットフォームやSNSを通じて拡散し、批判的な声が渦巻いたことも影響したのでは」と振り返る。
選挙期間中の報道について、「公平性」を意識することは、法律で決められたことでもない。公職選挙法148条に「虚偽の事項を記載し又は事実を歪曲して記載する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない」と記載されているだけで、「虚偽」や「事実の歪曲」がなければ、自由に報じることができるのだ。