だが米トランプ大統領とウクライナのゼレンスキー大統領がホワイトハウスで行った口論、そして米国政府が、ウクライナ政府・欧州を蚊帳の外に置いたままウクライナ停戦についてロシアと交渉する姿勢は、欧州の政治家たちに衝撃を与えた。欧州諸国の首脳たちは、「有事の際に米国が守ってくれる保証はない」と語っている。ドイツのシンクタンク・欧州外交評議会のラファエル・ロス氏は「アメリカとロシアは欧州の新たな分割を目指している。トランプ大統領は、プーチン大統領の〝助手〟になっている」と指摘した。
「目覚めつつある」ドイツ
日本人はどう生きていくか
こうした状況から欧州諸国は一刻も早く、米国抜きでもロシアの脅威から身を守る体制を構築し始めなくてはならない。だが、その作業は、1〜2年では終わらず、10年単位の時間がかかる。しかし多くの市民は、ドイツが東西冷戦後満喫してきた「平和の配当」がなくなったことを理解していない。ウクライナのオレクシー・マケイェフ駐ドイツ大使は、「多くのドイツ人は、ロシアがウクライナに侵攻してからも3年間惰眠を貪っていた。今ようやく目覚めつつある」と語っている。
メルツ次期首相は今年3月に財政政策を大きく転換し、国内総生産(GDP)の1%を超える防衛支出については、無制限に国債を発行して資金を調達できるように、連邦議会で憲法を改正させた。だが、防衛予算の増額だけでは、国を守ることはできない。次期首相は、平和と自由に慣れ切った若者たちに「この国の繁栄と平和を守るためには、市民が犠牲を払う必要がある」と納得させるという、最も難しい政治課題に取り組まなくてはならない。
ドイツでは現在、80年代のような反戦運動は起きていないが、筆者は復活の素地はあると思っている。政府が防衛に関するコンセンサスを生むことに失敗した場合、より多くの若者たちが極右政党や極左政党に走り、社会の分断がさらに深刻化する危険がある。
今年は終戦80年を迎える。日本はこれまで、安全保障に関しては米国に委ねて経済的繁栄を謳歌してきた。だが、それに安住し、惰眠を貪ることができないことはもはや自明である。ドイツや欧州の危機感を、日本は遠い国々の話として、いつまでも傍観できるはずがない。

