2025年12月8日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年5月15日

 第二は、相互関税への譲歩も、服従と同義ではないことだ。特にインド太平洋地域のより小さい国が譲歩するのは、自国地域から米国のプレゼンス撤退を認めることはできないからだ。しかし、互恵ではなく力関係を重視するトランプの「取引重視」の姿勢は、これらの国々の信頼を損なっている。この対米信頼の低下は、米国の敵対者に有利に働く。

 第三は、朝貢体制は大国の力次第だということだ。トランプは傲慢にも「説得の力」を捨てている。多くの朝貢体制が傲慢、慢心、過信によって崩壊することを歴史は示している。

 貿易戦争が激化・拡大するにつれ、過去80年歴代大統領が築き上げてきた善意の多くを失うことになるだろう。トランプ政権下の米国は、次第に世界から孤立していくことになるだろう。

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トランプは「米国の孤立」に気づいていない

 上記のトランプ朝貢体制論はアジア人が書いたもので、非常に面白い。リオウは、トランプは一連の関税措置によって世界の貿易経済構造を自分が中心の米国の朝貢体制に作り替えようとしているという。言い得て妙だ。

 関税措置を受けて多くの国の代表団が「トランプ関税の免除や軽減、特別扱いを得るために」ワシントンを訪問しようとしているし、トランプ政権もそれを慫慂(しょうよう)している。リオウのアナロジーは当たっているようにも見える。米国が関係国に妥協を持って来いといわんばかりに振舞っているのをみれば、トランプが一層明朝の皇帝のように見える。

 しかしリオウは、トランプは三つの問題に突き当たると言う。第一は、一部の国の朝貢拒否だ。全ての国が朝貢を呑んでいる訳ではない。中国は強く反発している。

 第二は、対米信頼の低下を挙げる。対米譲歩も、服従を意味しないと言う。「互恵ではなく力関係を重視するトランプの『取引重視』の姿勢」は、対米信頼を損なう。トランプの米への信頼低下は、米の敵対者(中国)に有利に働く。

 第三に、米の孤立化を挙げる。「トランプのやり方は過去80年米が築き上げてきた『善意』を失わせ、次第に世界から孤立していくことになるだろう」と主張する。これらの指摘も正しい。

 トランプの米国が同盟国等の信頼を失い、世界で孤立していく可能性はあながち否定できない。さらに、重大なことに、トランプは現実に全く気付いていない。


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