これらの製品を米国で製造できないかといえば、それは可能である。ただし、新たな工場を建設する時間がかかり、できた製品はより高額になろう。
一方、中国は時間稼ぎをしていれば良い。ただ、中国がもっと意地の悪い手段を用いる考えであれば、抗生物質の原材料、レアアース、米国の国債等いくつかの手段がある。中国の輸出にとって、米国向けの比率は14%に過ぎない。中国経済は14~15 兆ドルの規模であり、米国への輸出は5500億ドルに過ぎない。
中国共産党によって支配されている権威主義体制は、政治的・経済的痛みを受け止めることにおいて、経済混乱が直ちに政治的圧力に転化する米国よりも耐性がある。中国も間違いを犯すが、米国との貿易戦争については、中国は長年の間、それに向けて準備をしてきている。
それに引き換え、トランプ政権は行き当たりばったりの方策をとっている。トランプの手札は負ける手札である。遅かれ早かれ、ゲームから降りる時が来る。その時も、トランプ支持者は「取引の芸術だ」というのだろうか。
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貿易戦争の「痛み」をどう見るか
米中両国の間で、お互いに高関税を掛け合う状況になっているが、米中関税戦争では中国が有利にあると指摘するのが上記論説である。
トランプ政権の見方(「ベッセント・モデル」と呼ぶ)は、米国の対中輸出は、中国の対米輸出の5分の1に過ぎず、より多く輸出している中国の方が輸出できなくなるので不利だというものである。一方、この論説でラックマンがピーターソン国際経済研究所所長のアダム・ポーゼンの論説に依拠して論じているのは、より多く相手から輸入している米国は、相手方からの財の入手に依存しているので、相手から輸入できなくなることで不利になるという見方である(「ポーゼン・モデル」と呼ぶ)。
貿易は相互依存関係で、今回のように、双方が高い関税を掛け合う事態では、どちらがより大きな「痛み」を感じるかが問われる。ベッセント・モデルは、輸出できなくなることで失う「外貨獲得」を「痛み」として捉えるが、ラックマンが指摘するように輸入できないことのマイナスを視野に入れていない点で説得力に欠ける。また、中国が別の国に販路を見いだすことができれば、その分、「痛み」は軽減される。
