2025年12月5日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年5月16日

 一方、ポーゼン・モデルは、輸入できないことがもたらすマイナスを「痛み」と捉える。実際には、輸入品について他国からの「代替可能性」をも考慮に入れる必要がある。

 ポーゼン・モデルがそのまま妥当するのは、他国からの「代替可能性」が乏しいケースで、実際には、米国の中国からの輸入の全てが「痛み」に転化するわけではない。例えば、上記で挙げられているエアコン、扇風機、自転車、人形等の製品は、中国の世界におけるシェアが高いが、他国からの「代替可能性」もあろう。

 一方、短期的には「代替可能性」が低い財もあり、レアアース等はその典型であろう。米中どちらの「痛み」が大きいかは、個別品目についての影響を見る作業が必要になってくる。

 米中の関税戦争において、「痛み」の程度も大事であるが、同時に、米中どちらの方が「痛み」に耐え得るかも重要な要素である。この論説では、中国の方が権威主義的体制であるので、「痛み」に対する「耐性」が高いとしている。

カギを握る「第三国」の存在

 このように見てくると、米中二国間で見る限り、ベッセント・モデルよりはポーゼン・モデルの方がより真実に近く、米中関税戦争においては中国に有利な材料があると考えられるが、その力関係は単純なものではなく、中国の優位性はラックマンの指摘よりも、もっと限られたものかもしれない。

 さらに言えば、ベッセント・モデルも、ポーゼン・モデルも、いずれも米中2カ国間で捉えているが、実際には、第三国の存在が重要である。中国は、習近平の東南アジア歴訪(ベトナム、マレーシア、カンボジア)が示した通り、これを機に第三国との関係強化を狙っており、米国は、第三国が中国によって迂回輸出に使われる道を絶とうとしている。

 第三国が米中の狭間で実際にどのような動きをとるかによって、このゲームの行方も影響を受けることとなる。これだけ米中間の関税戦争が激化している状況で、日本についても、中国からの迂回輸出に使われないよう注意を要する。

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