中露それぞれにあった微妙な懸念を超えて
もっとも、首脳会談前には、双方に微妙な疑心暗鬼があったことも事実である。ロシアからみれば、2024年4月以降に中国側が米国の二次制裁措置を警戒して、中露間での一部物資や金融決済のやり取りに制限を加えてきたことがある。
中国はウクライナ戦争への「中立」を標榜しながら、一方では「限界のない戦略的パートナー」として、実質的にロシアを支えてきた。もはや中国への依存が不可欠となっているロシアとしては、特に第二次トランプ政権が「仲介」する和平合意をめぐって対米・対欧州連合(EU)での駆け引きに臨む前に、中国との関係を再確認したい思惑があった。
一方の中国でも、ロシアと北朝鮮の間での大規模な兵器・兵員供給といった軍事協力の拡大や、上述の和平合意をめぐる第二次トランプ政権下での米露接近など、相手方への懸念は浅からぬものがあった。このため習近平は、ロシア政府系メディアへの7日付の寄稿で、「相互の核心的利益と重大関心事について、双方はつねに支え合ってきた」「中露友好と相互信頼を破壊・毀損しようとする、あらゆる企てには共に抵抗する」と、あえて記している。そして米トランプ政権との貿易戦争が激化し、この打開交渉に臨む前に、やはり最大の同盟国であるロシアを緩やかに牽制しつつ、関係を再確認する必要があった。
結果として首脳会談を経て、実質的な中露同盟の関係強化が再確認されたことを考えれば、両国間では、大きな共通利害と好機を前にして、微妙な相違点よりも一致点が圧倒的に勝っていると考えるべきであろう。無論、それは古今東西の同盟関係がそうであるように、それぞれの利害得失の一時的合致の結果にすぎない。しかしそうであったとしても、現在の中露関係は、どの国にもまして補完関係を得られる同盟者であり、これを同床異夢と見ることは、明らかに間違っている。
「新しい神話の創造」という危険な兆候
何より中露の根底には、「西側」の自由民主主義とその「普遍的価値観」への憎悪、そしてこれが「支配」してきた(と中露が考える)世界秩序に対する激烈な対抗意識が強く共有されている。このため中露には、今まさに同盟すべき十分な理由がある。
すなわち不倶戴天の敵である米国と、これが軸となって築き上げてきた国際秩序は、第二次トランプ政権の破壊行為によって急速に自壊し始めた。そこにEU各国で顕在化している民主主義の機能不全や社会分断も加わって、「西側」の弱体化は不可避となりつつある。これが民主社会の復元性(レジリエンス)で回復する余地を与えず、むしろ突き崩すには、絶好の機会である。
この点でも今回の中露首脳会談では、危険な兆候が顕在化した。それは両国が、第二次世界大戦を勝利に導いたのは自分たちで、その成果である国際秩序が(彼らの主張としては「米国によって」)大きな困難に陥る中、「我々は公正と正義を堅持して国際秩序の擁護者となる」「真の多国間主義を守って世界を正しい方向に導き、普遍的な経済グローバル化を推進する」(共同声明より)という、「新しい神話の創造」を始めたことである。
これが矛盾に満ちた荒唐無稽なものであることは言をまたないが、混乱と空白に乗じて自らに都合のよい国際秩序の再編を狙う中露には、自らの正統性を語る物語(ナラティブ)となる。そしてそれは、第二次世界大戦と冷戦を経て自由民主主義が勝利したという「既存の神話」を、正面から書き換えようとするものである。
