2025年12月5日(金)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2025年5月15日

 中露両国は、すでに新興国で構成するBRICSの拡張を開始し、グローバルサウスの取り込みを急展開している。そして従来、旗幟を鮮明にすることを躊躇してきた諸国も、米国と世界システムの自壊を目の当たりにして、中露が「新しい神話」を以て主導することを目論む国際秩序に、徐々に引き寄せられ始めている。

 特に「西側」への積年の不信は、中露だけでなく東欧やグローバルサウスにも共有されており、今や米国というタガが外れつつある中、激しい反動となって噴出する危険性がある。そして四隅を取られたオセロでは、後戻りを許すことなく急速に一方へと反転する。中露の同盟関係と既存秩序への挑戦は、私たちが常識としてきた世界に深刻な危機をもたらしつつある。

日本に迫る危機

 そして中露の矛先は、今や私たち日本にも鋭く向けられたことに、真剣な危機感を持つべきである。今回の中露首脳会談の共同声明では、「(中露の)第二次世界大戦での勝利という歴史的結果を支持し、その改竄を許さない」とした上で、日本を名指しして「歴史上犯した残虐な犯罪行為から教訓を汲み、靖国神社などの歴史問題での現業を慎んで、軍国主義と徹底決別すべき」という文言が入っている。

 これは中国の抗日戦争勝利80周年を前に、対日牽制へ政治利用化したい中国側の要請で入れられたものと考えられるが、極東での日米同盟を敵視するロシアとしても、中国との対日共闘姿勢を鮮明にしたものである。

 ここで最も注意すべきは、日本が「軍国主義」と決別していないとする論法が、ウクライナに「ネオナチズム」というレッテルを貼り、これを根本から除去するという名目で一方的な侵略戦争を仕掛けた際に用いられたものと、同様な点である。すなわち、日米同盟の下での安全保障政策の強化に「軍国主義」というレッテルを貼り付け、あたかも日本に非があるような操作をして、牽制・攻撃の口実にしようとしている。

 プーチンは「友である中国と共に現代のネオナチズムや軍国主義に対抗する」と宣揚するが、ウクライナ戦争で証明されたように、それがいかに荒唐無稽な論法であっても、強引に主張し続け、彼らの創造する物語に組み入れられることで、もはや罷り通ってしまいかねない、という恐ろしい現実がある。

 中露の主張に対して、日本政府は林芳正官房長官が「我が国は戦後一貫して自由民主主義と法の支配を擁護し、アジアのみならず世界の繁栄に貢献してきた」「我が国が軍国主義と決別していないかのような主張は全く当たらない」と反論した。実に正論である。

 だが、この「既存の神話」に基づく正論は、「新しい神話」を以て国際秩序の再編を目論む中露にとって、何の意味も持たないのである。そして遠からずして、「既存の神話」と共に生きてきた日本は、西方と北方から直接包囲する中露によって脅迫され、「新しい神話」の受け入れを迫られる立場に置かれるであろう。もはや私たちこそが、直接的な危機に晒されているのである。

※本文内容は筆者の私見に基づくものであり、所属組織の見解を示すものではありません。

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