2025年12月6日(土)

プーチンのロシア

2025年5月16日

南ア訪問に激怒か

 ロシアの国営メディアは政府の意図通りの報道を行うのが鉄則だ。一連の報道からにじみ出るのは、プーチン政権がゼレンスキー氏の南ア訪問に、強くいら立っていたという事実だ。

 ゼレンスキー氏はこの南ア訪問を極めて重視していた。南アは主要20カ国・地域(G20)の議長国で、BRICsの一角でもある。G20とBRICsは、いずれもプーチン大統領が米欧中心のG7に対抗するうえで重視する国際的な枠組みであり、その一国にゼレンスキー氏は手を出した格好だ。

 さらに南アは、アフリカ大陸で最大の経済規模を持つ国で、その影響力は強い。アフリカは、ロシアが私兵集団「ワグネル」などを使い、その影響力を広げてきた土地でもある。国連における対露非難決議などで、ロシアの支援を受ける多くの国は対露批判を避けてきた。

 G20、BRICs、アフリカと、いずれもロシアが重要視する枠組みの中核の国である南アにゼレンスキー氏は自ら赴き、関係強化を図ろうとしたことがプーチン氏の逆鱗に触れたことは想像に難くない。ゼレンスキー氏がロシア側の反応までを想定して南アの取り込みを図ろうとしたかは不透明だが、23日にはスビリデンコ第一副首相兼経済相がウクライナの企業幹部らを引き連れて南アを初訪問して貿易強化を図るなど、その内容は儀礼的な関係強化の枠を大きく超えたものだった。

首都に最大規模の攻撃

 そして、ロシアはキーウへの大規模攻撃に踏み切った。キーウだけで少なくとも12人が死亡し、90人が負傷した。ロシア国防省は同日、「ウクライナの航空、機械、火薬を製造する企業などを長距離精密兵器で攻撃した」と発表したが、攻撃は北朝鮮のミサイルを使用したともいわれる。

 キーウ市内だけで13カ所が攻撃され、激しい爆発音が終夜鳴り響き、人々は逃げ惑った。民間施設や住宅も破壊された。

 しかし、プーチン政権が怒りにまかせるかのように行ったキーウ攻撃の代償は大きかった。プーチン氏に融和的だったトランプ米大統領がその姿勢を大きく転換する転機となった。

 「キーウを狙ったロシアの攻撃に、私は強い不満を持っている。必要でなく、悪いタイミングだ。ウラジーミル、やめろ!毎週5000人もの兵士が死んでいるのだ。和平協定を締結するんだ!」

 トランプ氏がSNSに書き込んだ言葉は、トランプ氏の意思の変化を明確に示していた。欧州の指導者らも「このような攻撃は、誰が侵略者なのかをわれわれに気付かせる。ロシアに対し、無条件の停戦に応じさせなくてはならない」(スターマー英首相)、「プーチンはうそをやめなくてはならない。彼は、平和を望んでいるといいながら、ウクライナを攻撃し続けているのだ」(マクロン仏大統領)。


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