かつてのソ連は、自らが勝利した第二次世界大戦におけるナチス・ドイツとの激闘を「大祖国戦争」と名付け、5月9日を戦勝記念日に制定した。「我が国は、甚大な被害を出しながら、ナチス・ドイツを倒し、人類を魔の手から救った」という神話が、社会主義体制下で確立された。
そして、その神話は今日のプーチン体制にも引き継がれ、さながら国家宗教のようになっている。ロシアは今年5月9日、大きな節目となる80回目の戦勝記念日を迎えることになる。
大祖国戦争でソ連は2000万人以上の人命を失った。一連の戦闘の中でも、「人類史上最大の市街戦」と言われているのが、「スターリングラード攻防戦」だ。
スターリングラードは、ロシア南部、ボルガ川の下流域に位置する工業都市で、交通の要衝でもあった。帝政ロシア時代には「ツァリーツィン」と呼ばれていたが、1917年の社会主義ロシア革命直後の内戦期に、まだ中堅幹部だったスターリンがこの街で反革命派の掃討に活躍したことから、同氏の名前をとって1925年にスターリングラード(スターリンの街)と名付けられた経緯がある。
思えば、このボルガ河畔の街にとって、「スターリン」の名を冠したことが、不幸の始まりであった。スターリンとヒトラーという2人の冷酷な独裁者が、象徴的なこの都市に固執したことが、桁違いの人的被害をもたらした。