そうした試行錯誤の甲斐もあり、浅野は『ビッグコミックスペリオール』(小学館)で現在連載中の最新作『MUJINA INTO THE DEEP』において、「街ごと3DCGでつくる」という斬新な手法を取り入れるに至った。
同作は、人権(ライツ)カードによって、国民の人権が管理される世界に生きる、非人権者「ムジナ」たちの闘いが描かれたバトルアクション。世相を踏まえ、昭和の時代とは異なり、人々の〝権利〟がより強調される現代社会ならではの問題を的確に捉えた作品だが、特に印象的なのは戦闘シーンである。ムジナたちが大都会の林立するビル群を颯爽とすり抜け、空を舞いながら刀で闘いを繰り広げる様子はまるで、疾走感や華麗さ、そして凄惨さを兼ね備えた映画の特撮シーンのようだ。
「自分たちがカメラで撮影して再現できる領域には限界がありました。でも、3DCGで街ごと作ってしまえば、画面上でどんな画角も表現できる。ストーリーやキャラクターはこの素材を生かす〝逆算〟の発想によって作り上げていきました。だから、『MUJINA』のキャラクターは空高く飛ぶんです」
マンガというコンテンツが
世界に羽ばたくために
浅野は、日本のマンガの未来や世界展開をどう見ているのか。
「日本のマンガは読み方や作り方に特殊なルールが多い。例えば、日本語で読むことを前提に右から左にページを読ませることが常識となっていますが、それをそのまま海外に展開している状態が本当に正しいのか、と感じています。今は海外の熱心なファンによって、当たり前のように受け入れられていますが、見方を変えれば、ファンに甘えている状態です。今後、海外市場でのさらなる成長を目指すのであれば、熱心なファン以外の人たちにもチューニングしたマンガ作りを試してもいいのではないかと思うんです」
同時に、浅野はこうした新たな手法を育むには読者の〝受容性〟も欠かせないと指摘する。
「マンガに限らず、受け手のリテラシーがなければ、『文化』は高まっていかないと思っています。既存のやり方に固執して、新しいものを拒絶するとそこで進化が止まってしまう。様々な感想をもつこと自体を否定はしませんが、受け手も文化を未来につなぐための〝参加者〟として新しいものを許容する責任があるのではないでしょうか」
時代に合わせて、柔軟にチューニングすることで作品を進化させ続けてきた浅野の活躍にこれからも目が離せない。(文中敬称略)
