「聖地巡礼」の本来の意味は、宗教的に重要な場所である「聖地」を信者たちが訪問することである。近年では、それが転じて、マンガやアニメ、ドラマなどの作品の熱心なファンが、それらの舞台になっている場所やロケ地、作者の故郷といった、作品にゆかりのある場所を〝聖地〟として訪れる行為も指すようになった。
現代版「聖地巡礼」の起源には諸説あるが、メディアにも注目されるきっかけとなった元祖は『らき☆すた』の埼玉県久喜市鷲宮だろう。
『らき☆すた』は2004年から月刊ゲーム雑誌『コンプティーク』(KADOKAWA)で連載されている女子高生のほのぼのとした日常を描いた4コマ漫画だ。07年にアニメ化されて人気に火が付き、そのオープニングに鷲宮神社をモデルにした風景が映ったことで、アニメファンが鷲宮に訪れるようになったのだ。
「昼間に人がほとんど歩いていなかった街に若者が日に日に増えていって驚いた」
こう当時を振り返るのは、久喜市商工会鷲宮支所経営指導員の松本真治氏。まだ「推し活」という言葉もなく、アニメで地域が活性化するとは思ってもいなかったという。
「せっかく遠くから来てくれたなら、何かお土産になるものを持ち帰ってほしい」という思いはあったものの、地域住民も職員もアニメに関することは完全な素人。何をすればいいか手探り状態の中、商工会が行ったのは、ファンへのヒアリングだった。
「神社で同じ人を何度も見かけるようになった。定期的に訪れてくれるファンが求めるグッズやイベントを提供するのが一番だと考えた」(同)
ファンへの調査と出版社との調整の結果、アニメの放送終了から3カ月後には絵馬型ストラップの販売を実現。1000個限定で製作し、販売場所は商工会の1カ所とするのではなく、町内で募った17店舗とすることで、ファンと地元住民との交流も促した。結果は発売開始から30分で完売。3度の追加販売が行われ、街の盛り上がりに呼応するように最終的には60店舗が参加した。
その後も、スタンプラリーの開催など、定期的にファンが鷲宮を訪れる機会を設けたことで、ファンと地元住民との交流が自然と生まれ、ついには地元の伝統のお祭りで「らき☆すた神輿」が登場するまでにアニメが地域に浸透していった。
アニメ放映から15年以上─。いまだに『らき☆すた』ファンが鷲宮を訪れている理由について松本氏は、「何かやる度に反響をもらえたことで、イベントを提供する地域住民側が楽しむようになっていった。良い作品に恵まれたことが一番根底にあるが、自分たちも作品を愛して、楽しんでいることがファンにも伝わっているのではないか」と話す。
