ツアーで楽しむ
「聖地巡礼」の新たな形
かつて聖地巡礼の多くは、一部のコアなファンが個人的に行うものだったが、近年の「推し活」の浸透と共に「コンテンツツーリズム」が注目を集め、旅行商品として成り立つまでに市場が拡大している。
エンタメと旅行を掛け合わせたツアーを数多く企画してきたJTBエンタテイメント事業部の柳澤太一氏もその成長を実感し、こう話す。
「エンタメにまつわる旅行商品の主力は音楽ライブやフェスに合わせたものだが、ここ数年で、アニメやマンガとコラボした旅行商品は2~3倍に増え、コンテンツ側からの問い合わせも10〜20倍になっている」
また、同部でアニメツーリズムを担当する桐谷奈緒美氏は「最近は、制作段階から『聖地巡礼』を意識した作品も出てきている。旅行内容を考える上で協力が欠かせない自治体や施設側もコラボに積極的で、期待感の高まりを肌で感じる」と続ける。
自身も大のアニメ好きという桐谷氏は、ツアーでの聖地巡礼のメリットについて、「ゲストで声優を呼んだり、原作者描き下ろしの特典を付けることはツアー化するからこそできること。ビジネス目線でプランを押し付けるのではなく、作る側も参加する側もワクワクするようなプランを考えている」と語る。
聖地巡礼の方法も多様化し、コアなファンだけでなく、多くの人々が気軽に訪れるようになったが、一部地域ではオーバーツーリズムも問題となっている。ただ、柳澤氏は旅行商品だからこその効果をこう話す。
「事前に自治体や施設と調整して開催日程や人数を設定するため、受け入れ側の事前準備が可能になり、キャパオーバーを防ぐことができる。この〝最適解〟は地域の支店担当者が日々、自治体とコミュニケーションを取っているという強みがあるからこそ見つけられる」
聖地巡礼は本来、観光資源が乏しい地域でも活性化につなげることができる貴重なツールであるはずだ。だが、過剰な好意や急激な変化はその効果を反転させてしまうリスクもある。エンタメを地域還元につなげるのであれば、ただ作品を使って人を呼び込むだけでなく、地域が受容し、その作品に愛着をもてるような関係性を構築することが必要だ。
マンガで分かりやすく
ありそうでなかった事業
作品にゆかりのある場所を聖地化して人を地域に呼び込むだけが「還元」方法ではない。
福岡県北九州市は、言わずと知れた名作『銀河鉄道999』の松本零士氏や、わたせせいぞう氏など、100人以上にも及ぶ著名なマンガ家を輩出してきた「マンガの街」である。明治期に官営八幡製鉄所の開業によって栄えた北九州には、主要新聞社の西部本社が置かれ、経済の発展と共に人々の文化への関心も高くなった。戦後の貸本屋や映画館の数は全国屈指だったという。
