2025年12月6日(土)

商いのレッスン

2025年6月22日

ビジネスとは信頼の構築

 このように信頼関係は「譲歩」や「情」によって築かれるのではなく、「相手の現実にどれだけ歩み寄るか」によって生まれる。担当者がただ「お願いする」姿勢だったなら、話は進まなかっただろう。

 現場に足を運び、自分の目で見て、自分の言葉で語ったからこそ、相手も心を開いたのである。対話がかみ合わないとき、人はつい「分かってくれない」と感じるが、相手も同様に思っている。まず、こちらが分かろうとすることが関係改善の第一歩だ。

 もう一つ大切なのは、共通の目的を見失わないことだ。両者は、「安全でおいしい商品を顧客に届けたい」という点で一致していた。価値観が共有されていれば、手段に違いがあっても対話は続けられる。むしろ、手段の違いは新しいアイデアの種にもなる。

 「この人となら話せる」と思わせるには、姿勢と行動がものを言う。時間を惜しまず現場を訪れ、相手の立場を尊重し、自分の主張も根拠を持って丁寧に伝える。その地道な積み重ねが、難航する交渉の突破口になる。

 ビジネスの本質は理屈の勝負ではなく、信頼の構築だ。信頼があれば、たとえ激しい対立があっても関係は壊れない。むしろその衝突を通じて、より強固なパートナーシップが生まれることさえある。

 対話がかみ合わないと感じたときこそ、むしろ、信頼を築くチャンスだととらえたい。相手の目線に立ち、自分の言葉で、自分の足で橋をかける。それがビジネスの現場で生きる「商いのレッスン」である。

長期の信頼よりも
短期の儲けを選ぶと
一時の儲けは得られても
長期の繁盛は得られない
Facebookでフォロー Xでフォロー メルマガに登録
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。
Wedge 2025年7月号より
終わらない戦争 沖縄が問うこの国のかたち
終わらない戦争 沖縄が問うこの国のかたち

かつて、日本は米国、中国と二正面で事を構え、破滅の道へと突き進んだ。 世界では今もなお、「終わらない戦争」が続き、戦間期を彷彿とさせるような不穏な雰囲気や空気感が漂い始めている。あの日本の悲劇はなぜ起こったのか、平時から繰り返し検証し、その教訓を胸に刻み込む必要がある。 だが、多くの日本人は、初等中等教育で修学旅行での平和学習の経験はあっても、「近現代史」を体系的に学ぶ機会は限られている。 かのウィンストン・チャーチルは「過去をさかのぼればさかのぼるほど、遠くの未来が見えるものだ」(『チャーチル名言録』扶桑社、中西輝政監修・監訳)と述べたが、今こそ、現代の諸問題と地続きの「歴史」に学び、この国の未来のあり方を描くことが必要だ。 そこで、小誌では、今号より2号連続で戦後80年特別企画を特集する。前編では、戦後日本の歪みを一身に背負わされてきた「沖縄」をめぐる諸問題を取り上げる。


新着記事

»もっと見る