コロナ禍を経て、沖縄の観光業が回復軌道に乗り始めている。2024年度、沖縄の入域観光者数が995万人に達した。これは、初めて1000万人を突破したコロナ禍前の18年度に次ぐ数字だ。
戦後、沖縄の観光業は「慰霊観光」から始まったが、現在、観光客数では、米・ハワイに匹敵する規模になった。観光収入は、23年度には過去最高額の8507億円に達し、一人当たり消費額も増加傾向にある。
求められる量から質への転換
適正価格で「価値を売る」
追い風が吹き始めた沖縄観光業に、大きな期待を集める施設がある。7月25日、県北部の今帰仁村に誕生する大型テーマパーク「ジャングリア沖縄」だ。運営会社のジャパンエンターテイメント(名護市)取締役副社長の佐藤大介氏は、「沖縄は魅力の高い地域。その価値はもっと生かすべきだ。また、沖縄に限らず、日本は安さを売りに数を追い求める傾向がある。これをいかに転換していくかがカギだ」と話す。
ジャングリア沖縄では、国内在住者の大人の1Dayチケットが6930円だが、訪日観光客には8800円に設定し、二重価格を導入する。
「近年、テーマパークでは、アトラクションに早く乗るために追加料金を払うなど、価値を感じるものに対価を払う感覚が広がっている。訪日客であれば『せっかく(日本、沖縄に)来たのだから』『世界基準からして妥当』だと思える金額設定であれば、国内在住者と同じ価格にする必要性もない。〝正しい価値〟に対して〝正しい価格〟を設定することが重要である」
北部周辺にはホテルの開業も相次ぐ他、アクセス向上のため、名護東道路の延伸が決まるなど、国も沖縄観光の発展を後押ししている。
北部を中心として、主に大型リゾートホテルを展開し、前田産業ホテルズなど6社をグループ会社に持つ、ゆがふホールディングス(名護市)代表取締役社長で、沖縄経済同友会の副代表幹事も務める前田貴子氏はこう語る。
「これまで名護以北の北部エリアは観光客がとどまりにくい『素通り観光』が大きな課題だったが、ジャングリア沖縄はそれを変える可能性がある。加えて、実績ある会社の経営手法が沖縄のテーマパークに生かされれば、ブランディング力やマーケティング力が沖縄にも蓄積され、沖縄観光業の底上げが図れるのではないか。また、パークの通年営業で沖縄観光のシーズナリティーが平準化されることによる関係人口の増加や、ジャングリア沖縄の従業員による定住人口も増え、地元経済への期待も大きい」
ただ、懸念されている最大の課題は、交通渋滞だ。これに対しては、駐車場の料金設定の調整や予約制導入などで分散化を図る。また、ジャングリア沖縄に行かなくとも地域の足として利用できるオンデマンド交通「mobi」を導入するなど、対策を進めている。