長年の課題もある。外資や本土企業の沖縄進出が進むことで、県内で生じた利益が県外・国外に流出してしまう「ザル経済」のリスクだ。前田氏はこう話す。
「沖縄だけに限った話ではないが、宿泊予約は従来の旅行代理店から国内外のOTA(オンライン・トラベル・エージェント)からの予約が増えている。集客効果がある一方、事業者側はOTAに対して手数料を支払う必要があり、近年、それが上昇している。自社のHP経由のいわゆる『直予約』をもっと増やしていきたい。そのためには、ホテルのブランド価値や認知度を上げていかなければならない。重要なのは、やはり質の向上。さらに言えば、それを支える観光業の高度人材の創出も大切である」
名護市にある名桜大学では23年4月、国際観光産業学科が新設された。また、「Hopeful Okinawa」というホテル業界の本格的なインターンシップも始まり、沖縄では本腰を入れて観光人材教育に取り組み始めている。
新たな投資は次世代の布石
長期的な評価が大切
近年の沖縄の観光産業について、観光地域の経営に詳しい早稲田大学ビジネススクール教授・研究科長の池上重輔氏はこう分析する。
「75年から76年にかけて、本土復帰後の記念事業として開催された沖縄海洋博覧会では、一時的に観光産業が盛り上がり『海洋博バブル』となった。だが、その後、地元の景気は一気に落ち込み『海洋博不況』に陥った苦い経験もある。大規模なインフラ投資にもかかわらず、利益の大部分が県外の大手ゼネコンに吸い取られ、地元は維持費ばかりがかさみ、経済波及効果が薄かった」
海洋博は当時、跡地利用にも多くの議論を呼んだが、現在は海洋博公園(国営沖縄記念公園)に生まれ変わり、多くの観光客を惹きつける「沖縄美ら海水族館」がある。
「賛否のあった海洋博だが、長い目で見れば沖縄の認知度アップにつながりプラスの面が大きい。もしかすると美ら海水族館がなければジャングリア沖縄の構想もなかったかもしれない。観光産業とは、どのスパンで見るかで評価が分かれるもの。長期的に見て、今の投資が将来の布石になるのか。いかに資産・資源を積み上げていくかが重要であり、結果的に次世代にどうつながったのかが評価のゴールだ」(同)
確かに「ジャングリア沖縄」開業に伴い、名護市では賃貸物件の需要が急増し、学生や地元住民がアパートを借りにくくなるといった問題があり、開業後の交通渋滞による市民生活への影響なども懸念される。
しかし、何かを始める時には、課題はつきものであり、それをどう克服していくかが、沖縄観光産業の分水嶺となるだろう。
海洋博同様、ジャングリア沖縄の開業や沖縄観光産業で芽生え始めた「量から質への転換」という良質な変革の成果を、次世代につなげていくことこそが最も重要だ。日本全体の観光産業が抱える課題である、付加価値の高いビジネスをどう生み出していくか。沖縄は日本のフロントランナーになれるのか─。短期ではなく、中長期の視点で期待したいところだ。
