2025年12月5日(金)

古希バックパッカー海外放浪記

2025年6月29日

日本の製紙業界の事情とピノチェト軍事政権

 調べてみるとチリ南部における広葉樹森林伐採・ウッドチップ輸出は、1970年代後半に日本の製紙業界の要請で始まった。当時オーストラリア政府の資源保護政策により、オーストラリア産ウッドチップの輸出が制限されたため日本の製紙業界は代替供給先を求めていた。

 他方で1973年に左翼のアジェンダ政権を米国の支援を受けて、クーデターにより倒して政権を握ったピノチェト将軍率いる軍事独裁政権は、新自由主義政策を掲げて外資導入、輸出促進、経済の自由化を推進していた。軍事政権にとり日本の製紙業界の要請は、安定した輸出が期待できるので“渡りに舟”だった。こうしてチリの森林伐採事業とウッドチップ輸出が始まった。

 しかし現在では、日本の輸入は広葉樹原生林由来は少なく、大半は植林樹木由来となっている。おそらく日本の業界関係者がマプチェ族の権利回復運動や自然環境問題を早くから注視してきた結果ではないかと推測する次第。

パタゴニアの大農園の牧童(ガウチョ)はマプチェ族の末裔

 3月13日。プエルト・モントのホステルで相部屋となった南ア出身のパット18歳は、高校卒業後半年バイトして資金を貯めて南米に来たバックパッカー。彼の目的は憧れのパタゴニアの大農場(estancia)で、ボランティアとして3カ月暮らすことだという。農場から宿舎・食事を提供される代わりに、牧羊の仕事を手伝うのだと楽しそうに大農場のボランティア募集広告の写真を見せてくれた。

 広大なパタゴニアの農場で馬に乗り羊の群れを追う牧童達は、先住民の風貌であった。白人の農園主や支配人の下で実際に牧羊の仕事をしているのは、マプチェ族の末裔たちなのだ。

アルゼンチン側のパタゴニアでの外国大資本による大規模土地買収

 1990年代にペロン党(正義党)政権のカルロス・メネム大統領は、大衆迎合バラマキ政治による財政破綻を回避するべく、新自由主義的政策を採用。その一環としてマプチェ族の生活圏であるパタゴニアの土地を、国内外の資本家に売却した。同時に資本家は白人所有者がほとんど活用していない土地も併せて買収した。

 その結果、950万ヘクタールもの土地が産業資本に買収された。同時に従来から生活していたマプチェ族の多くは、土地を追われた。特に欧米大手企業は大々的に買収し、あるイタリア企業は90万ヘクタールもの土地を占有した。こうした大資本による土地の寡占化の下で経営される巨大農場で、マプチェの末裔は牧童として働いているのだ。

以上 次回に続く

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