2025年7月13日(日)

未来を拓く貧困対策

2025年6月30日

国に救済と謝罪を求めるか、判決を冷静に読み解くか

 図表1は、報道各社の特色を筆者の視点で整理したものである。各社のスタンスは、国に救済と謝罪を求めるグループ(朝日新聞、東京新聞、毎日新聞)と、公正で透明な説明を求めるグループ(読売新聞、日経新聞、産経新聞)にわけることができる。

 筆者は原告団が裁判をはじめた時から継続的に動向を観察し、報道も逐一チェックしてきた。その肌感覚としては、前者のグループは当初からおおむね一貫してこの裁判を支持する視点で報道をしてきた。一方で、後者のグループは冷淡であり、記事にしないか、記事にするにしても事実を短く報じるに留めてきた。

 しかし、最高裁判決を受けて、その判決を批判したり、疑問を呈する有識者の意見を報じたりするものはなかった。どの新聞でも、今回の判決を妥当なものとし、国に適切な対応を求めている点は共通している。驚くべきことに、生活保護という論争の絶えないテーマにおいて、「反対者がいない」という稀有な状況が生じているのである。

引き下げを当時進めた自民党議員らは取材拒否「朝日」

 朝日新聞は社説で「生活保護判決 利用者に謝罪と救済を」と明確に利用者の権利回復を訴えている。さらに、「引き上げ前の『生活保護バッシング』の空気を醸成したのは、メディアの役割が大きかった。『働けるのに保護を受けたと聞いた』など、該当の声を集めて、裏どりもせずに流す報道が横行した。同じことを繰り返さないよう、自戒することが求められる」とし、引き下げ判決を受けた「生活保護バッシング」の再燃にくぎを刺している。

 判決に先立つ、25年5月16日、原告らを支持する運動団体は、連名で「生活保護に関する偏見や差別を助長しない報道と議論を求める共同声明~『生活保護バッシング』注意報を発出します~」を出している。同声明を意識したコメントといえるだろう。

 さらに、元厚労省職員による当時の自民党政権に配慮せざるをえない空気感や、生活保護の引き下げを主導した自民党議員に取材を行うなど、生活保護利用者の視点から取材をしている。なお、生活保護費削減を打ち出した自民党のプロジェクトチームのメンバーや、その発言は、ジャーナリストの安田菜津紀氏が詳しく報じている。「米のために奔走している」姿が連日報じられている現農水大臣の小泉進次郎氏も、メンバーの一人である(安田菜津紀「『法律はかざりか』―権利への政治介入、コピペ判決、生活保護引き下げ巡り問われる国と司法のあり方」)。

 「判決後、引き下げを当時進めた自民党議員らは、朝日新聞の取材に応じなかった」という一文が、朝日新聞のスタンスを印象づける。


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