保護基準の算定方法を紹介「東京」、影響最大3000億円規模「毎日」
東京新聞と毎日新聞は、朝日新聞と同じく、社説で国に救済と謝罪を求めている。
東京新聞は判決に向けて入念に準備をしてきたのであろう。生活保護基準の新しい算出方法「ミニマム・インカム・スタンダード(MIS)」について、1面を割いて解説している。
ミニマム・インカム・スタンダード(MIS)とは、一般市民を対象としたグループ・インタビューで「最低生活」を定義し、その生活を充実するために必要な物品やサービスを具体的に全てリストアップして最低生活費を積算する手法である。
国内調査は、東京都立大学教授の阿部彩氏らによるプロジェクトチーム「子ども・若者貧困研究センター」が行っており、報告書も公開されている(「貧困・格差の実態と貧困対策の効果に関する研究」13年3月、「MIS手法による最低生活費の試算に関する調査研究事業報告書」20年3月)。
報告書は、生活保護基準を検討する有識者会議である「生活保護基準部会」でも参考資料として示されている(第41回社会保障審議会生活保護基準部会資料)。今回の判決を受けた見直しの際にも、新たな算定方法として注目を集める可能性がある。
毎日新聞は、「原告団の試算では、この間に減額された総額は最大で3000億円になるとみられる」としたうえで、前例のない判決に対して国の対応が焦点になると報じている。
また、社説では「実際に制度を利用しているのは対象者の2~3割程度とされる。セーフティーネットの機能を果たせているとは言えない」と漏給の問題に踏み込んでいる。
筆者は、24年10月の記事「『生活保護バッシング』から見えた『もれなく救う』と『不正受給を防ぐ』のジレンマ、生活保護の理想と現実」で、この問題を詳しく取り上げている。
引き下げの多寡ではなく、プロセスの評価に徹した「読売」
読売新聞は、社説で「減額の裏付け説明怠った責任重い」とした。しかし、その筆致はあくまで冷静で分析的である。
「最高裁は今回、引き下げ額の多寡を評価せず、あくまでもプロセスに問題がないかをチェックする姿勢に徹した。生活保護費を巡る過去の判例でも、専門性や政策的判断が求められるとして行政の裁量を広く認める考えを示しており、これに即したといえる」と評価している。
筆者は、22年6月の記事「国の独断で生活保護基準を決めてもいいのか?生活保護引き下げ「違法」裁判を読む」で、今回の生活保護引き下げ訴訟は、「生活保護基準の決め方の妥当性」を問う裁判であると解説した。読売新聞のスタンスは、これと同じものである。
差額支払いに特措法も「日経」、不正受給・財政逼迫・SNSの反応「産経」
日経新聞は、読売新聞と同じく、社説で「公正で透明な生活保護制度に」と国への対応を求めた。
特筆したいのは、「差額支払いへ特措法も 当時の受給者200万人超」という分析記事である。毎日新聞が原告団発表を受けて3000億円と報じたのに対し、日経新聞は独自に積算をしたうえでその金額を「2900億円を超える」と見積もっている。
また、今後の救済の方法についても、次のように報じている。
生活保護は都道府県や市区町村が設置する福祉事務所が窓口となっている。地方自治体の事務負担が重くなりすぎるとして、厚労省内には「特措法をつくり、国が直接実務を担わざるを得ない」との見方がある。(日経新聞、2025年6月28日朝刊)
特措法による救済には前例がある。ハンセン病問題をめぐる最高裁判決を受けて、時の政権は政治決断による解決に踏み切った。当時の首相は、小泉純一郎氏である。
筆者は、23年12月の記事「生活保護減額訴訟で国に賠償命令 今後、何が変わるか」で、生活保護引き下げ訴訟においても、特措法が迅速な解決に向けた一つの手法であると述べた。日経新聞の取材では、厚労省内部で、解決に向けた検討が具体的に進められていることをうかがい知ることができる。
新聞各社のなかで、唯一、SNSの反応を報じたのが産経新聞である。不正受給や財政逼迫などの生活保護制度の抱える課題を指摘するとともに、SNSでは判決に対して賛否が割れていることを紹介している。