2025年7月13日(日)

終わらない戦争・前編沖縄

2025年7月4日

 無事に免許を取得した若年ママには強みがあった。子育てと向き合ってきたため、子どもとの触れ合いに恐れが全くなかったのだ。その経験は実社会でも大いに役立ち、保育助手としてのオファーがすぐに来た。

 「彼女たちの中には保育士を目指そうとした人もいたが、中卒で要件を満たせなかった。すると、自ら通信制の県立高校を受験して合格し、アパートで子どもと暮らしながら、必死に勉強し始めた」。これらは全て、事業開始後たった半年間での出来事である。山内氏はこう断言する。

 「彼女たちにとって運転免許は人生で初めての〝資格〟であり、自己肯定感を上げる効果もある。働く意思が芽生え、高校にも通いたいと思えるようになる。免許取得が、彼女たちの自立に向けた『正の連鎖』を回す大きなきっかけになった」

計り知れない価値
母子家庭を支える仕組みを

 もちろん、彼女たちを単純な「労働力」として見なしてはならないが、生活保護のゴールが「自立」であることと同様に、彼女たちの自立に向けた支援は、母子・企業・社会の三方にとって極めて重要だ。彼女たちが健全な納税者として新たな「人材」となり、人手不足に直面する観光業をはじめ、沖縄経済を下支えし、好転させる牽引力になる可能性さえ秘めている。さらに、貧困の負の連鎖を断ち切る突破口の一つにもなる。

 「働きたいと願う若年ママはたくさんいる。事業者は『即戦力』を求めがちだが、企業や行政が協力し、長く働ける環境と、彼女たちを従業員として育てていく仕組みを用意できれば、ウィンウィンの関係になるはずだ」と山内氏は期待を込める。

 元内閣府沖縄担当大臣で自民党・島尻安伊子衆議院議員もこう話す。

 「沖縄の貧困の母子家庭の中には、基本的な生活習慣が身につかない環境で育つ子どももいる。自己肯定感を知らずに育つ子どもが自立する前に親になり、生活困窮をくり返す。そうした貧困の『負の連鎖』を断ち切るため、経済的なシステムをうまく回す仕組みを、点ではなく、面的に整える必要があり、これからも政治の力でバックアップしたい」

 若年ママが地元に根を張り働き続け、子育てできる環境を整えることがいかに尊いことか、山内氏の活動は教えてくれる。沖縄の明日を担う若年ママが一人でも多く「自立」していくことを願ってやまない。

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Wedge 2025年7月号より
終わらない戦争 沖縄が問うこの国のかたち
終わらない戦争 沖縄が問うこの国のかたち

かつて、日本は米国、中国と二正面で事を構え、破滅の道へと突き進んだ。 世界では今もなお、「終わらない戦争」が続き、戦間期を彷彿とさせるような不穏な雰囲気や空気感が漂い始めている。あの日本の悲劇はなぜ起こったのか、平時から繰り返し検証し、その教訓を胸に刻み込む必要がある。 だが、多くの日本人は、初等中等教育で修学旅行での平和学習の経験はあっても、「近現代史」を体系的に学ぶ機会は限られている。 かのウィンストン・チャーチルは「過去をさかのぼればさかのぼるほど、遠くの未来が見えるものだ」(『チャーチル名言録』扶桑社、中西輝政監修・監訳)と述べたが、今こそ、現代の諸問題と地続きの「歴史」に学び、この国の未来のあり方を描くことが必要だ。 そこで、小誌では、今号より2号連続で戦後80年特別企画を特集する。前編では、戦後日本の歪みを一身に背負わされてきた「沖縄」をめぐる諸問題を取り上げる。


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