無事に免許を取得した若年ママには強みがあった。子育てと向き合ってきたため、子どもとの触れ合いに恐れが全くなかったのだ。その経験は実社会でも大いに役立ち、保育助手としてのオファーがすぐに来た。
「彼女たちの中には保育士を目指そうとした人もいたが、中卒で要件を満たせなかった。すると、自ら通信制の県立高校を受験して合格し、アパートで子どもと暮らしながら、必死に勉強し始めた」。これらは全て、事業開始後たった半年間での出来事である。山内氏はこう断言する。
「彼女たちにとって運転免許は人生で初めての〝資格〟であり、自己肯定感を上げる効果もある。働く意思が芽生え、高校にも通いたいと思えるようになる。免許取得が、彼女たちの自立に向けた『正の連鎖』を回す大きなきっかけになった」
計り知れない価値
母子家庭を支える仕組みを
もちろん、彼女たちを単純な「労働力」として見なしてはならないが、生活保護のゴールが「自立」であることと同様に、彼女たちの自立に向けた支援は、母子・企業・社会の三方にとって極めて重要だ。彼女たちが健全な納税者として新たな「人材」となり、人手不足に直面する観光業をはじめ、沖縄経済を下支えし、好転させる牽引力になる可能性さえ秘めている。さらに、貧困の負の連鎖を断ち切る突破口の一つにもなる。
「働きたいと願う若年ママはたくさんいる。事業者は『即戦力』を求めがちだが、企業や行政が協力し、長く働ける環境と、彼女たちを従業員として育てていく仕組みを用意できれば、ウィンウィンの関係になるはずだ」と山内氏は期待を込める。
元内閣府沖縄担当大臣で自民党・島尻安伊子衆議院議員もこう話す。
「沖縄の貧困の母子家庭の中には、基本的な生活習慣が身につかない環境で育つ子どももいる。自己肯定感を知らずに育つ子どもが自立する前に親になり、生活困窮をくり返す。そうした貧困の『負の連鎖』を断ち切るため、経済的なシステムをうまく回す仕組みを、点ではなく、面的に整える必要があり、これからも政治の力でバックアップしたい」
若年ママが地元に根を張り働き続け、子育てできる環境を整えることがいかに尊いことか、山内氏の活動は教えてくれる。沖縄の明日を担う若年ママが一人でも多く「自立」していくことを願ってやまない。