2025年12月6日(土)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2025年7月30日

 確かに今回のイスラエルのイラン攻撃は、イラン側にイスラエルに対する核抑止力の必要性を痛感させ、イランが核武装実現にさらに進む可能性を高めたと思われ、そのことはイスラエルとイランの衝突の激化をもたらすばかりでなく、「イランが核武装すれば、核武装する」と広言しているサウジアラビアに止まらず中東内外の諸国の核武装を促し、国際的な核兵器の不拡散体制にとっても深刻な問題となろう。しかし、中東地域でのイスラエルとトルコの勢力争いは十分深刻な問題だ。

 この対立のイデオロギー的側面は、現在のエルドアン・トルコ大統領の強いイスラム原理主義指向の問題だ。長年、トルコは世俗主義を国是として来たが、同大統領は、トルコをイスラム原理主義国家に変えようとし、かつ、強権指向を強めている。ユダヤ教のイスラエルがイスラム教の聖地エルサレムを支配することがイスラム原理主義者の攻撃の的となるのは必然だが、既にエルドアン政権とイスラエルは、パレスチナ問題で度々衝突している。

すでに始まっている「代理戦争」

 地政学的な理由は、昨年12月にシリアのアサド政権が崩壊し、イスラエルとトルコの間の緩衝国が消滅したことだ。そもそも、アサド政権の崩壊自体が、国際世論がイスラエルによるガザ、レバノン、イランの衝突・緊張に気を取られている隙にトルコが仕掛けたもので、シリアの暫定政権はトルコがスポンサーだ。今後、トルコがシリアに影響力を強めるのは必然だろう。

 他方、イスラエル側は当初はアサド政権崩壊の混乱に備えてゴラン高原等のシリア領内に緩衝地帯を設けたが、その後、イスラエルは、反イスラエルのトルコがスポンサーとなるイスラム原理主義国家が隣国シリアに出現するのを阻止しようと考えていると思われる。そのために暫定政府と対立している少数民族、特にクルド勢力とドゥルーズ勢力を支援しているが、空爆も行っているので、既にイスラエルとトルコの「代理戦争」が始まっているとも言える。

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