英国に本部を置くシンクタンクIISS(国際戦略研究所)のホカィエム地域安全保障問題部長が、6月28日付けフィナンシャル・タイムズ紙掲載の論説‘The Iran threat will haunt the Gulf for years’で、イスラエルと米国対イランの対立・衝突は続き、ペルシャ湾岸のアラブ産油国はその間ずっと衝突の巻き添えになることを懸念しなければならない、と論じている。要旨は次の通り。
イスラエル、米国、多くの西側諸国で、(イランに対する)楽観論、高揚感が生じている。多くの人々はイランを挫くことにより、中東に平和と安定をもたらすと信じている。
これとは対照的にペルシャ湾岸アラブ産油国では恐怖が広がっている。1980年代のイラン・イラク戦争、90年-91年のイラクのクウェート侵攻、03年のイラク戦争とその後の混乱を経て、これらの諸国では世界の統合と域内の繁栄がこの地域を混乱から守ってくれると期待していた。
5月のトランプ大統領のサウジアラビア、カタール、アラブ首長国連邦(UAE)への訪問は、米国がこの期待に一枚加わるために慎重に計算されたものであった。しかし、イスラエルはイランを攻撃し、米国も核施設を爆撃した。
イラン側のカタールの米軍基地に対する報復はよく計算されたものであったが、カタールとその近隣のアラブ産油諸国に間違いなくショックを与えた。湾岸アラブ産油国は、不確実性と不安定性に対応する長期的な計画を立てなければならない。
今後はイランが核拡散防止条約(NPT)から脱退するか、イスラエルと米国がイラン空爆を継続するか、そしてイランが初歩的な核兵器を作るかが焦点となる。そして、ペルシャ湾岸のアラブ産油国は(イランの核問題の)脅威は交渉を通じてマネージ可能だと考えていたが、今や今後何十年にもわたって自分達の安定性に影響を及ぼす手に負えない問題になったとみている。
トランプ大統領は、イランを押さえつけて域内に統合するという複雑で持続的な解決に興味は無く、他方、イスラエルは自分たちの好きなようにやりたい。つまり、イランの制空権を握り、モサドのスパイが好き勝手に行動するということだ。そして、弱体化したイランは傷口を舐めるのに忙しく、時間稼ぎに汲々としている。
イランの核の瀬戸際政策は悪い方向に働いたが、依然としてイラン側が切り札として使うことは可能だ。しかし、イスラエルによる攻撃を中距離弾道弾と代理勢力で抑止するという戦略は失敗した。
さらに、ロシアは困ったときの友達にならないことが分かり、中国は、その次の友達だと言われているが、中国側は、今回の衝突から中東の問題には関わらない方が良いということを学んだであろう。他方、イランは、依然として多数の短距離弾道ミサイルとドローンを保有しているが、これらはペルシャ湾岸地域でしか有効ではない。
