極右勢力の台頭
民主主義を守る戦いは続く
ここまで徹底して「歴史との対決」を行っているドイツでも近年、困難な問題に直面している。右派ポピュリズムの拡大に伴う極右政党の台頭だ。ドイツに住むユダヤ人の間では、極右政党ドイツのための選択肢(AfD)が今年2月の連邦議会選挙で得票率を前回の選挙の2倍に増やし、第二党になったことについて不安が募っている。AfDの得票率は、特に若い世代の間で激増した。2029年の連邦議会選挙では、AfDがキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)を抜いて首位に立つ可能性が指摘されている。
AfD幹部の中には、ナチスのスローガンを演説で堂々と使って有罪判決を受けたり、ホロコースト犠牲者のための慰霊碑を「恥のモニュメント」と呼んだりする者がいる。AfDのアリス・ヴァイデル共同党首は24年のある演説で、ネオナチが使う「再移住(Remigration)」という言葉を堂々と使用した。再移住とは、ドイツに帰化した外国人も含めて、移民系の外国人を国外追放することだ。
内務省の捜査機関・憲法擁護庁は今年5月に、AfDを「確定的に過激な極右団体」と一時認定した(認定の適法性については現在係争中)。その理由は、AfDが人種・民族によって市民を差別する思想を持っているからだ。AfDの幹部の中には、「イスラム教国からドイツに来て、帰化した者はドイツ人ではない」と公言する者がいる。ドイツの基本法(憲法)は、ナチスによる重大な人権侵害への反省に基づき、人間の尊厳を傷つけることや、人種や宗教による差別を禁止している。
ドイツが70年以上にわたって教育や刑事訴訟を通じて歴史との対決を続けてきたにもかかわらず、全国では有権者のほぼ5人に1人、旧東ドイツではほぼ3人に1人がこの反社会的政党を選んでいる。米国や英国のように、伝統的な政党に不満を抱き、将来について不安を持っている市民が、SNSに蔓延する偽情報に影響されて、ナチスまがいの政党に票を投じているのだ。あるユダヤ人著述家は、「AfDが政権に参加したら、私はドイツを去る」と公言している。
フリードリヒ・メルツ政権は、「難民政策を厳格化することなどにより、AfDの支持率を高めている要因を減らすことが、我々にとって最も重要な目標の一つだ」と説明している。一部の政治家は、連邦憲法裁判所にAfDを禁止させるべきだとも主張している。今日のドイツ政府にとっては、ナチスの歴史との対決を続け、過去の犯罪を若者たちに正確に伝えるだけでは足りない。1920年代のワイマール共和国を想起させるような、極右政党の伸長を防ぐことも、ドイツ人たちが直面する重要な課題である。民主主義を守るための戦いは、まだ終わっていないということだ。
日本とドイツの戦争犯罪を100%同列に並べて論じることはできない。欧州とアジアの地政学的状況も異なる。ただし両国ともに加害国だったことは間違いない。ドイツは長年にわたる歴史との対決の結果、欧州諸国のコミュニティーの中に身を埋めている。それに対し、我々日本人はアジア諸国の信頼を得るために、歴史との対決を十分に行ってきただろうか? アジアでも地政学的リスクが高まっている今こそ、我々は負の歴史と真摯に向き合うべきではないだろうか。ドイツにも様々な困難があるが、その姿勢から日本が学ぶべき点は多い。
