しかし、米軍の駐留の判断において金銭の支払いを基準とする考え方は「傭兵」の発想であり、「一国に対する攻撃は全加盟国に対する攻撃と見做す」とするNATOの集団防衛の基本理念とは本質的に相容れない。欧州がより大きな防衛費を負担することを求めるのは良いとしても、かかる要求にどれだけこたえられるかと言う評価を駐留軍の配備と直接結びつける発想は、結果的に、信頼性のある防衛態勢の構築を妨げることに繋がりかねない。
重要となるウクライナ戦争の行方
第三は、在欧米軍削減を欧州における安全保障上のリスクを最小限にしつつ進める上で、ウクライナ情勢の帰趨が重要な意味をもつという点がもっと強調されるべきである。ルッテNATO事務総長は「ロシアが5年以内にNATO領土に対して確実な攻撃を仕掛けることができる」と述べた。デンマーク軍情報機関もロシア軍がNATOにとっての脅威となるまでの期間を「5年」と公表し、IISSは、「最も早ければ2027年」にもNATOに対する重大な軍事的挑戦となる」と分析している。
これらの分析は、いずれも「ウクライナ戦争が終結した時点」から起算したものである。よってウクライナ戦争が想定より長引く場合、あるいは戦況がウクライナにとって有利に推移した場合などは、ロシア軍の回復がそれだけ遅れることになり、欧州NATO諸国にとっては防衛力増強のためさらに時間的余裕ができる。
また逆の場合は、時間的余裕がなくなることになる。つまり在欧米軍の削減を欧州の安全保障にとってのリスクを最小限にしつつ進める上で、ウクライナ戦争をウクライナにとって有利に展開させるような対ウクライナ軍事支援の維持・強化は大いに貢献するものであり、この点がもっと強調されて然るべきであろう。
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