米国はNATO軍当局に対し、戦闘計画の見直しと更新のための時間を与えるべきで、欧州各国は、米国の方針転換によって失われる特定の能力を再現することに尽力すべきである。ロシアが軍事力を増強し、欧州が自衛態勢を整える前に米軍が撤退すれば、新たな戦争のリスクを高める。
欧州における将来の戦争を防ぐ最善の方法は、ロシアが決して戦争を始めないようにすることだ。そのためには、米国と欧州が、慎重かつ協調的な戦力引き継ぎを設計する必要がある。
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対中抑止に焦点への危険性
在欧米軍の削減によって失われる能力を欧州諸国がどのように補填できるかにつき、米国は欧州と十分に調整・合意する必要があり、過早な兵力削減は欧州ひいては世界の軍事バランスをも崩して重大な事態に繋がりかねない。本件記事の論旨に異論はない。ただ今回のトランプ政権による在欧米軍削減計画については、特に強調すべき点として、追加的に以下を指摘しておきたい。
第一は、トランプ政権の在欧米軍削減計画は対中抑止に集中することで、生じ得るリスクは許容することが方針となっているとみられる。上記記事で紹介されている「2025年暫定国家防衛戦略指針」の記述は実際このことを意味している。
第二次世界大戦後、そして冷戦後の在欧米軍の削減の背後には、基本的にロシア(ソ連)に対する脅威認識の変化があった。ところが今回トランプ政権が検討している兵力削減は、中国を「唯一の迫りくる脅威」と規定して対中抑止に米国の対応を集中させ、欧州その他の地域において生じ得るリスクについてはこれを「引き受ける」と明示している。
しかし現実には、在欧米軍の削減は欧州において、まさにロシアの軍事力強化が見込まれる中で行われることとなりかねない。対中抑止に焦点を当てることは結構なことであるが、欧州とアジアの安全保障上の関係性を十分に踏まえるべきであり、これが今回の在欧米軍削減計画に関する最大の懸念である。
相容れない集団防衛の基本理念
第二は、トランプ政権が、欧州各国がどれほど防衛費増額に努力するかを削減の対象や規模を決める上での基準の一つとしていることである。トランプは「公正な負担をしない国からは部隊を引き上げる」などとして、米軍の駐留に防衛費増額(=米国負担の軽減)に貢献した場合の「ご褒美」としての位置づけを与えた。
