異世界への冒険
フェアリー・テイル スティーヴン・キング(著)、白石 朗(訳) 文藝春秋 4675円(税込)
事故で母親を失った17歳の少年チャーリー。近所に住む老人、ミスター・ボウディッチが庭で倒れているのを発見して病院に入院させる。その間、チャーリーはボウディッチ氏の飼い犬であるレイダーの世話をすることになる。レイダーを通じて、2人は心を通わせ始める。しかし、ボウディッチ氏が高額な医療費を払うために持っていた金の粒はどこから持ってきたのか、謎が深まる。そして、得体の知れない物音が家の裏庭から聞こえてくる。レイダーの命を救うため、チャーリーは謎の階段をくだっていく。これほどの「フェアリー・テイル」がかつてあっただろうかと思える衝撃の一冊だ。(上下巻)
若手医師の成長物語
城砦 アーチボルド・ジョセフ・クローニン(著)、夏川草介(訳)日経BP 1980円(税込)
舞台は1924年、第一次世界大戦の復興期にあたる英・スコットランドの田舎町。24歳の若手医師のアンドルー・マンスンは期待と情熱をもって僻地医療に取り組むことになる。昔からの慣習や経験に頼る町の人々に、よそ者であり科学的な医療を行うマンスンはなかなか理解されないが、地道に実績を積むことで信頼を勝ち取っていく。友情、恋愛、家族とのやり取りを通して人としても成長していく過程から、医師も一人の人間であることを改めて感じさせられる。(上下巻)
不明瞭なままの世界
ピュウ キャサリン・レイシー(著)、井上 里(訳)岩波書店 2100円(税込)
性別も年齢も、どこから来たのかもわからない。教会の信者席で寝ていたことから名付けられた、本書の主人公のピュウ。閉鎖的な町の住人はピュウのことを知るために様々な質問をするが、ピュウは回答を拒み続ける。物語が進むにつれて、ピュウを自分たちの解釈に当てはめる町の住民たちの空気感、また町に隠れた人種の問題などが滲み、不穏な空気が増していく。そして曖昧さを残した結末では、ピュウは我々にも問いかける。あなたはこの物語をどう捉えるだろうか?
