歩くことを包括的にとらえ、 肉体的に動く機能はもちろんのこと、思考や発想との結びつき、都市との関わり、理想的なシューズのあり方とそれをとりまくビジネスの状況などについて深く考察した本である。
「歩く」 と聞くと、 現代人はすぐにダイエットのようなものを想像しがちだが、 本書『歩く マジで人生が変わる習慣』(ニューズピックスパブリッシング)は人間が歩く意味を大きな問題意識の下で広範に取材しまとめた。
偉人達も歩くことで思考を繋いでいた
まず著者である経済ジャーナリストの池田光史氏が主張するのは、歩くことは頭脳を働かせることであり、 実践している人が世界には多くいるということだ。例えば、アップルのスティーブ・ジョブズ氏は歩きながら会話や商談をすることを好んだ。メタのマーク・ザッカーバーグ氏もそれにならい、 本社の屋上にトレイル(自然歩道)を人工的に作り上げたことを紹介する。ここには歩行と思考はつながっているという信念がある。
「歩けば答えがひらめいた」という経験をしたことがある人は、少なくないはずだ。歩行と思考はつながっている。そのことに、ジョブズも、ザッカバーグも、気づいていたということではないだろうか。
過去においても、 多くの偉人が散歩を通じて思索を深めた事例を紹介する。例えば、ニーチェやベートーベンのような哲学者や大作曲家が散歩を実践してきたことを示すくだりは興味深い。 古今東西を問わず、人間が歩くことで思考に繋がり、そこにアイデアが降りてくる例が多数あったことがわかる。
さらに人間が二本の足で歩くということの高度なメカニズムについても、著者は 解説する。直立二足歩行が人間にとってどれだけ重要で価値あることなのかが、本書を読むとよく理解できる。
