広がりを見せている
戦略的自律・自立の議論
本来であれば、米国がより十分なパワーを持ち、それゆえに同盟国も負担を分担し、なおかつ戦略的焦点が専ら中国に当てられることが日本にとって最良のシナリオであった。
しかし現状では、中国シフトも十分に実現できずに、米国は中途半端に世界に関与し続けている。同盟国には中国が重要だ、経済安全保障を構築すべきと口では言いながら、実際には同盟国に圧力をかけ続け、日本も台湾も厳しい状況に置かれている。米中経済交渉が進む中で、NVIDIAのH20チップなどの禁輸措置は緩和され、今後も経済安全保障の緩和が見込まれる。同盟国には以前と変わらず、対中規制を強く求めているにもかかわらず、である。
同盟国を見渡すと、自強や選択肢の増加によって大国を牽制するという、「戦略的自律」の動きは明らかに強まっている。さらにラディカルな方向性として、同盟国への依存を断つ「自立」を求めているかのような声も少しずつ聞こえてくる。
NATOによる10年がかりでの、国防費の3.5%(および関連予算1.5%)のコミットメントは、米国からの圧力に応える側面もあるが、同時にそれを奇貨として自らを強化し、選択の余地を増やそうとする動きにもみえる。従来の米国との同盟を基軸にする戦略をプランAとすれば、国防費の増加はそれを発展させるプランA+の動きでありつつ、新しい戦略に基づくプランBでもあるのだろう。
日本においても同様の声がある。米国の頼りがいが失われ、同盟の損得勘定は日本にとって明らかに分が悪いと見えれば、そのような動きが出てくるのは自然だ。仮に防衛予算を米国が求めていると言われるGDP比3.5%の水準にすれば、実のところ日本は自らが決定できる余地が増え、皮肉にも同盟の重要性は低下する。そのように安全保障と経済の両面で米国の信頼が失墜し続け、日本が対応を余儀なくされれば、同盟が維持されたとしても、真に対等なパートナーシップへの移行を求める声が高まるのは当然だろう。
とはいえ、既存の同盟体制を意図的に解体へと導くような政策的選択に踏み切るべきかどうかは、極めて慎重な判断が求められる。そのような急進的な転換は、国際社会にさらなる不安定化をもたらし、地域的軍拡の連鎖を誘発する「軍拡のドミノ効果」を引き起こしかねない。
自律性を高めることは当然だとしても、日本と世界を利するルール重視の国際秩序を超大国不在でどのように維持するのか、かつてないほどに「荒ぶる米国」とどう付き合えば良いのか、生き残るための戦略が日本には必要とされている。
グローバル化が進んで以降の約35年間、自由主義や民主主義などの価値観を前提に、比較的予測可能性が高い時代を私たちは生きてきた。しかし、これからは宗教やポピュリズム、イデオロギーの力が増し、ルールも規則性が見失われる真逆の世界に突入していく。米国の動きは決して例外ではなく、国際秩序を遠慮なく揺さぶり続ける。従来の思考の延長線上、いわゆる正常化バイアスの範疇を超える準備が必要である。

